数秒で価格を提示する「AI写真査定技術」が循環型社会を推進する小川浩平 大黒屋ホールディングス代表取締役社長 兼 大黒屋代表取締役社長

大黒屋は、画像認識AI(人工知能)を活用して数秒で中古ブランド品の価格を表示するAI写真査定技術を開発。近日中に、オンライン上のやりとりで完結する真贋鑑定・査定機能をチャット上で提供開始する予定だ。実現すれば、消費者はいつでもどこでも、自分の持ち物や資産などの二次流通価格を容易に把握できるようになる。この新サービスの詳細と“大義”、そして同社グループが目指す「持ち物の価値が常に可視化でき、運用できる世界」を小川浩平社長が語った。

アプリが高級腕時計やブランドバッグの価格を瞬時に表示

 宇宙飛行士も着用した有名なスイス製腕時計を、アプリを立ち上げたスマートフォンのカメラで撮影しチャット経由でデータを送る。と、次の瞬間、画面に「20万3000円~27万8000円」という査定=買取可能価格が表示された。この時計は登場以来の歴史が長く売れ筋ゆえ、文字盤やデザインに無数のバリエーションがあることで有名。しかし、見事にモデル名を特定した。

 また、家紋のようなロゴマークが入った茶色のブランドバッグは型番や“MM”というサイズまで正確に認識し、同様に査定価格を素早く表示した。鑑定士・査定士のいる店舗ではなく、東京都港区の大黒屋本社会議室でのデモンストレーションである。

 大黒屋ホールディングスと大黒屋を率いる小川浩平代表取締役社長は語る。

「当社では、家庭内に眠っている中古ブランド品資産の有効活用やその促進を目指しています。そのために、約8年前からAIによる鑑定・査定や値付けシステムの確立に着手。自社での商品売買と、世界規模での買収や業務提携を通じて中古ブランド品のデータ収集を進めつつ、AI技術の確立・追究に取り組んできました。AI技術に最も重要な教師データ、すなわち独自に蓄積した50万点以上の画像を含む商品学習データを活用しAIと連携させることにより、チャットで写真を送るだけで、たった数秒で査定結果を表示できるようになったのです」

数秒で価格を提示する「AI写真査定技術」が循環型社会を推進する小川浩平
大黒屋代表取締役社長 1979年、慶應義塾大学経済学部卒業後、総合商社トーメン(現:豊田通商)入社。1987年、コロンビア大学経済大学院修了。同年ゴールドマン・サックス・アンド・カンパニーに入社し、数多くのLBO案件を手掛ける。94年、香港十大財閥の一角ファー・イースト・コンソーシアム・インターナショナル・リミテッドの社長に抜てきされた、日本人として唯一の経験を持つ。華僑の創業者と共に、全世界で200社に及ぶ投資先企業および事業の経営にハンズオンで関わる。2006年、大黒屋買収。12年より、大黒屋代表取締役社長に就任。

 今までは、ブランド品の査定や資産価値把握スキルは専門的な経験を積んだ人=鑑定士・査定士のみが持っていた。真贋鑑定に当たっては、商品の手触りや匂いも重要な情報だった。故に、中古ブランド品を売却したい消費者は、そうした“人”のいる古物商や質屋などの店舗に現物を持ち込むか、自宅などに来てもらって査定を受けるしかなかった。

「でもそれはとても面倒です。当社は個別の商品写真はもちろん、独自開発したAI写真査定技術を入れたアプリで撮ったクローゼットの写真を送ってもらうだけで、消費者が自らの持ち物の資産価値が分かるシステムを構築しました(下の図表参照)。スマホカメラの解像度向上など技術の進化は目覚ましく、類似のサービスを発表している会社もあります。しかし当社は長年、実店舗などでその道のプロが蓄積した膨大な画像データ、買取・販売実績データ、そしてオークションからリテール販売までのデータを含む二次流通市場購買データを持っている。それが他の追随を許さない強みになっています。消費者は自宅に居ながらにして『今これ売るといくら? 自分のブランド品資産総額はどれくらい?』を知ることができるのです」

 大黒屋は2023年11月にLINEヤフーとの業務提携を発表。共同施策として、「LINE」上で中古ブランド品を買取り、「Yahoo!オークション」に出品し、落札結果に応じて顧客に還元する新サービスの概念実証の取組みを開始する、という内容だ。詳細はここでは省くが、既にAI査定技術を応用したサービスの布石は打たれている。

 次ページでは、たった数秒で商品を査定しオンライン上で買取契約を完結させる同社の驚異の技術と、この新ビジネスの目的と“大義”について詳しく紹介する。