CO2削減に
“魔法のつえ”は存在しない
——本日出席の日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の大手3社さまをはじめとした鉄鋼各社は、世界市場で厳しい競争を繰り広げながらも環境・省エネルギー技術開発・投資を積極的に実行。エネルギー効率は世界最高水準に達し、素材産業を含む製造業の中でも鉄鋼業界の省エネ意識は極めて高いといわれています。日本の鉄鋼業のカーボンニュートラルに対する取り組みは、どこまで進んでいるのでしょう。
日本製鉄・池田悟(敬称略、以下同) 当社の例でお話しします。当社は強い素材産業を実現することが、日本の製造業の国際競争力の基盤になると考えています。いろいろな議論があろうかと思いますが、鉄は他素材に比べても、環境負荷が低い素材だと捉えています。単位重量当たりの温室効果ガスの総排出量はアルミの5分の1、炭素繊維の10分の1といわれます。しかし生産規模自体がかなり大きいものですから、絶対値のCO2は多排出になるということです。
こうしたことから、鉄鋼業におけるCO2削減は重要課題になっているのですが、当社独自の取り組みとして「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を公表しました。その中で2030年度にCO2の総排出量を30%削減(対13年度比)、50年にカーボンニュートラルを目指すというビジョンを掲げたCO2排出削減シナリオを策定しました。このように当社では気候変動問題への取り組みを経営の最重要課題と位置付け、総合力世界ナンバーワンの鉄鋼メーカーを目指しています。
——どのような技術を開発しているのですか。
日本製鉄・池田 鉄鋼の製造工程の抜本的なCO2削減のため、「高炉水素還元」「大型電気炉での高級鋼製造」「水素による還元鉄製造」という三つの超革新的技術を用いたカーボンニュートラルの実現に取り組んでいます。前人未到の領域であり、かなり高いハードルだと捉えていますが、「高炉水素還元」では、加熱した水素を使用してCO2を削減する「Super COURSE50」の技術開発試験において、世界最高水準となる高炉本体からのCO2排出量22%削減を確認、23年11月から12月に実施した試験ではさらにそれを更新する33%削減を確認しており、成果も出始めている状況です。
――鉄鋼業界は競争の激しい業界です。技術開発についても各社で競争をするのですか。
JFEスチール・手塚宏之 CO2削減に“魔法のつえ”は存在しません。カーボンニュートラル製鉄はラボスケールでは実現できても、商業ベースで安価・大量・安定的に供給する使命を果たすことは、生半可なことではできません。そのため、カーボンニュートラルを実現するための技術開発は、鉄鋼業界全体で協力しながら進めていく必要があると認識しています。それぞれの会社が分担して技術を開発し、成果は共有して、国の支援も頂きながら共有財産として使い、製品の分野で競争するという立て付けで進めていると、私は認識しています。
次ページからは、人類は今なお「鉄器時代」に生きている、日本の鉄鋼の今を明かす。