自然の中の散策は
注意力を回復させる?
都会でアスファルトの上を歩くよりも森の中を散歩した方が、頭がさえるようだ。米ユタ大学の樹木園を散歩した人では、アスファルトだらけの医学部キャンパスを散歩した人に比べて、散歩後に、注意を構成する機能の一つである実行制御が改善することが、脳波(EEG)の測定から明らかにされた。ユタ大学心理学分野のAmy McDonnell氏とDavid Strayer氏によるこの研究結果は、「Scientific Reports」に1月22日掲載された。
Strayer氏らは、人間には自然に対する原始的な欲求があると話す。同氏は、「これは、人間は何十万年にもわたる進化の中で自然や生物とのつながりに愛着を持つようになったとする、バイオフィリアと呼ばれる考え方だ」と説明し、「現代の都市環境は、携帯電話や自動車、コンピューター、交通が密集する都会のジャングルと化している。これは、回復力を備え持つ自然環境とは正反対だ」と付け加えている。
今回の研究では、18〜57歳の92人(女性71人、男性20人、ノンバイナリー1人)を対象に、自然環境の中を散歩することが脳にどのような影響を与えるかが調査された。
対象者は半数(46人)ずつ、40分間、ユタ大学キャンパスの近くの丘陵地帯にある樹木園を歩く群と、アスファルトで舗装された医学部キャンパスを歩く群にランダムに割り付けられた。どちらの群も、EEGを測定するための32個の電極が取り付けられたキャップをかぶった状態で、散歩の直前に1000から7ずつ引いていく消耗性の高い認知課題をこなした。これは、注意力の予備能を使い果たすことを目的にした課題だと研究グループは説明している。
次に、参加者は、注意を構成する3つの機能(刺激を予測し反応の準備をする「喚起」、入ってきた刺激のどれに注意を向けるかを選ぶ「定位」、注意を向けたものに適切に反応する「実行制御」)を評価する課題であるAttention Network Task(ANT)を行ってから40分間の散歩に出かけ、散歩の後に再びANTを行った。
その結果、自然環境の中を散歩した群では散歩後に実行制御能が改善していることが確認されたが、都市環境の中を散歩した群ではこのような改善は認められないことが示された。具体的には、自然環境の中を散歩した群では、散歩前に比べて散歩後にターゲット刺激に対する反応時間が有意に短縮し、また誤った反応やミスをしたときに生じる負の電位であるエラー関連陰性電位(ERN)が増加していることが確認された。