30代で東証プライム上場企業の執行役員CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)となった石戸亮氏が、初の著書『CDO思考 日本企業に革命を起こす行動と習慣』(ダイヤモンド社)で、デジタル人材の理想的なキャリアについて述べています。
デジタル人材は、ビジネスの現場でどのように求められているのか。
本当に需要のあるデジタル人材として成長するためには、どんなスキルを身につければいいのか。
デジタル人材を喉から手が出るほど欲している企業に迎え入れられ、そこで重用されるには、どんな行動を取ればいいのか。
本連載では、デジタル人材として成長するためのTo Doを紹介していきます。
面倒な案件管理入力を効率化する
サイバーエージェントで営業部のマネージャーをやっていた20代の頃、日報入力や案件・顧客管理が義務化されていましたが、これに結構な時間がかかっていました。エクセルの案件管理表に入力し、同じく訪問先リストに入力し、戦略的な組織変更があれば、その都度リストを更新する。ある時は、部の誰かがエクセルのファイルを壊してしまい、膨大な時間をかけて作り直しました……。
私が訪問先から帰社するのがだいたい夕方6時頃。それからお客さんに一通りお礼メールを送ると7時。日報入力に20分、案件管理リスト入力に30分。その他の雑務をこまごまこなしていると、あっという間に9時か10時。その時間からようやく部内の案件報告会議が始まります。会議が終わり、提案資料を作り始めるのは深夜12時──といった毎日でした。
若い時分でしたし、それはそれでビジネス筋肉がついたのでよかったのですが、困ったこともありました。私はサイバーエージェントではわりと若くして結婚したので、当時すでに子供がいたのです。こんな働き方では平日は絶対に子供と会えません。土日も出社しますし、管理職ですから休日のマネジメント合宿にも行かなければなりません。
これはまずい。家庭が崩壊する。会社を辞めようかな……とまで思った時に実行したのが、CRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)システムの構築でした。非効率で時間のかかるエクセル作業や案件管理、顧客管理をもっと効率化したかったのです。また短期的な営業結果だけではなく、1年後、2年後も継続的に結果が出るような組織や仕組みを作りたかったのです。さらに、報告だけの会議は徹底的になくして、チャットツール(10年前くらいですとYammerというツールを使っていました)を活用し、そこに報告を入れてくれれば、営業の案件報告会議は不要としました。
実際にシステムを組んだのはもちろん私ではなく、社内のエンジニアです。彼に「日報や案件管理が大変で午後7時から下手をすると10時までずっとその作業に追われている。これ、どうにかできないかな?」と相談したところ、CRMというのを使えば案件管理と顧客管理が一元化できますよ、という答え。彼はSugarCRMというオープンソースを見つけて組んでくれました。
業務フローや作業記述がされた業務一覧は私が抽出し、全体俯瞰と可視化をして、一緒に要件定義を行い、エンジニアに開発してもらいました。以降、私の組織は皆そのCRMを使い案件管理入力時間が大幅に短縮されたのです。
その上で私は、CRM入力後の案件報告会議もなくしました。夜遅くに毎週1時間以上もそんなことに時間を使う必要はない。そもそも効率的じゃない。皆には、「私がマネージャーをやる時に案件報告会議は要らない。みんながCRMに入れているのを見ておきます。気になったら聞きますね」と伝えました。
ただ、使い始めはなかなか入力しないメンバーがいたり、使いづらい機能があったりする。そこで私は毎日営業メンバーが入力するところを見せてもらい、彼らが困っていることを全てメモ。優先度をつけて、エンジニアとシステム改善を徹底的に行いました。そしてメンバーが入力してくれた数字や活動記録にきちんと目を通してから会話をするようにしたのです。
私の元来の面倒くさがりが功を奏したわけですが、DXの大きな一側面とは、こういった効率化のことだと思います。無用な業務を減らすべく、必要にかられて行う措置。そのプロセスの中に「DX化」があるというだけで、ことさら主眼をDXに置いて「DXで何ができるか」を考えるのはナンセンスです。順番が違う。
そういった効率化の方法を、ツールや手段先行にならず、デジタル的なソリューションも含めて考え、実行できるのが「デジタル人材」というわけです。繰り返しますが、CRMのプログラムを組んだのは私ではありません。私がやったのはエンジニアの仕事を理解し、会話し、指示を出してお願いしたことです。
※本稿は『CDO思考 日本企業に革命を起こす行動と習慣』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。