巷では「DX」「DX」の大合唱が呪文のように続いています。しかし現場からは、「仕事が増えただけで売上はなかなか上がらない」という悲鳴が聞こえてきます。そんな悲劇を解決すべく、1000社以上の問題を解決してきたITコンサルタント・今木智隆氏が書き下ろしたのが『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)です。本連載では、さまざまなデジタルの「あるある」失敗事例を挙げながら、なぜそうなってしまうのか、どうしたら問題を解決できるのかをわかりやすく丁寧に解説していきます。ECサイトやSNSの運営に携わっている現場の方、デジタル広告やデジタルマーケティングに関わっている現場の方はぜひご一読ください。

数億円かけたデータ分析でわかったのは、アホでも知ってる常識だった!Photo: Adobe Stock

「でしょうね」としか言いようのない分析結果にトホホ

 データがたくさんあれば、それを分析することで貴重な知見が得られるはずだ―――。
 データ分析に関して多くの方が勘違いされるのは、まずこの点でしょう。そう思われるようになったのは、1990年代に話題になった「おむつとビール」の記事が影響しているのかもしれませんね。
 あるスーパーがPOSデータを分析したところ、おむつとビールが同時に買われていることが多いとわかったという、マーケティング業界では有名なエピソードです(もっとも、実際におむつの横にビールを置いて売上が伸びたのかといったことに関してはきちんと検証されておらず、都市伝説として扱われることも多いようです)。

 膨大なデータがあれば何らかの相関関係が見つかって、それを使って売上が伸ばせるのではないか。マーケティングに関わる人間なら、一度はそう考えるでしょう。
 しかし、現実にはそんな風に使えそうな知見が見つかることはまずありません。
 かつて某大手食品メーカーが数億円の費用を掛けて、コンビニにおける自社製品の売上を分析しようとしたことがありました。その結果、いったい何がわかったでしょうか。

 なんと、「ペットボトルのお茶とおにぎりは、いっしょに買われることが多い」とわかったそうです。コンビニのPOSデータには、どんな属性の人が買ったのかといった情報も含まれていませんし、当然の結果ではあるのですが。それにしても「ペットボトルのお茶とおにぎりがいっしょに売れている」ことがわかったところで、施策の取りようがありません。数億円掛けて、「でしょうね」としか言いようのない結果を得た担当者の嘆きはいかばかりだったでしょうか。

 このような例は、ECサイトについても枚挙にいとまがありません。
 ECサイトの売上データの推移から、特徴的な購買パターンを見つけようというのも「あるある」です。数年分の売上データから「大きく売上を伸ばせそうな購買パターンを見つけてほしい」といった依頼を弊社もよくいただきます。確かにデータはたくさんありますから、「××の売上が10パーセント伸びています」だとか「××というキーワードからやって来る人が4パーセント増えています」といった、もっともらしいレポートはいくらでも書くことができます。そのようなレポートを見た経営陣が言うのは、「で、結局何がわかったの?」。

 商品構成は大きく変わっているわけでもなければ、顧客層が変わっているわけでもない状況で、売上データを分析したところで何も得られません。
 他にも、M&Aや事業提携を行っている企業同士のデータを連結させて、パターンを見つけようというケースもあります。このようなケースでは、そもそも前提となるデータの収集方法も異なっていることが多く、合わせたところでやはり有益な知見は得られません。
 データサイエンティストを雇ったり、大量のデータを扱えるクラウドのサービスを使えば、読み切れないほどのレポートを出してくれはしますが、元々意味のないデータをいくらこね回したところで、何も起こりはしないのです。

※本稿は『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。