食品宅配のオイシックス・ラ・大地は2022年8月、シダックスの株式を買い取るTOB(株式公開買い付け)を開始した。このTOBにシダックス事業子会社社長らは賛同したが、実はオイシックス側が賛同表明を工作していたことが分かった。特集『シダックス 謀略ゲーム』の#1は、TOBを成立させるべく買収者が仕掛けた「謀略」の実態を暴く。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
調査報告書が解き明かす
「自作自演」のTOB賛同表明
「この度頂戴したシダックス社の事業子会社代表者一同からのお声は、実際に事業を運営されておられるシダックス社の事業側の皆様の中にも同じお気持ちでいていただいている方がおられることを感じることが出来、大変勇気づけられております」
2022年9月6日、オイシックス・ラ・大地がこんな内容のプレスリリースを公表した。
オイシックスはこのリリースを出す1週間前の8月30日、シダックスへのTOB(株式公開買い付け)を開始。だがシダックスの取締役会は9月5日、オイシックス以外の第三者からの協業提案や自力成長を検討する機会が失われるとしてTOBへの反対を表明していた。
翌6日にオイシックスが公表した冒頭のリリースは、シダックスの事業子会社代表者一同からTOBに賛同する旨の書簡を受け取ったとする「お知らせ」だ。
オイシックスの高島宏平社長宛ての書簡には、TOBに反対した取締役会に「代表者一同の思いをくみ取っていただけなかったものと解釈せざるを得ず、誠に残念」などと記され、「貴社とシダックスとの協業こそが、今後のシダックスの成長の上では望ましい」「(取締役会の)反対意見表明は、シダックスグループとしての総意にはなっていません」と訴えた内容だ。
このリリースを一読すれば、シダックス取締役会の反対にもかかわらず、事業子会社の代表者はオイシックス宛てに「自発的に」書簡を送るほどTOBに強く賛同しているとの印象を誰もが抱く。実際、リリースを受けて「取締役会と賛否分かれる」「TOB反対は総意ではない」などと一斉にメディアに報じられた。
だが、これはフェイクである。
真実は、書簡を送るよう催促したのはオイシックスであり、TOBを成立させたいシダックス創業家と共謀してTOB開始の約1カ月前から、その準備を周到に進めていたのだ。つまり「自作自演」である。
外部からは絶対にうかがい知れないその内幕を解明したのが、シダックス取締役会が22年10月に設置を決めた調査委員会である。岩村修二、高橋麻理、野宮拓、片岡良平の弁護士4人から成る調査委はシダックス役職員らへのヒアリングやメール解析などを進め、23年3月に報告書をまとめた。
だが、報告書は非開示とされた。22年10月のTOB成立後、反対派の取締役らが駆逐され、新たに実権を握ったオイシックス、そして創業家側の取締役が開示を認めなかったからである。
その後、オイシックスの子会社となったシダックスは24年2月28日の臨時株主総会を経て全株式を取得するスクイーズアウト(強制買い取り)を実施し、3月末までに上場廃止となる見込みだ。
だが、そのM&Aは公正に行われたのか。上場会社としてのシダックスが消滅する前に「禁断」の報告書をひもとき、闇に葬り去られた真実を明らかにする必要がある。
ダイヤモンド編集部が入手した報告書には、オイシックス、シダックス創業家、そして創業家に雇われたコンサルタントや弁護士にとって「不都合な真実」が記されている。
そこに描かれているのは、TOBを巡って市場を欺くべく繰り広げられた、ルール無視の「謀略ゲーム」だ。次ページでその内容を明らかにする。