シダックス 謀略ゲーム#3Photo by Takeshi Shigeishi

シダックスがオイシックス・ラ・大地の子会社となり、少数株主から強制的に株式を買い取るスクイーズアウトを経て上場廃止されることが決まった。2022年のTOB(株式公開買い付け)に始まった一連の騒動は、いったい何が発端だったのか。取材を進めると、静岡県伊豆市のワイナリーにたどり着いた。特集『シダックス 謀略ゲーム』の#3は、現地からルポをお届けする。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

シダックス創業者の「心の魂」
伊豆の故郷に広がる広大なブドウ畑

 愛すべき葡萄がワインとなり私の心の魂となる――。

 静岡県の旧修善寺町(現伊豆市)の山間部に、10ヘクタールの広大なブドウ畑が広がる。そのブドウ畑全体を見渡す「中伊豆ワイナリー シャトーT.S」の一室に、このワイナリー設立者の詩歌が掲げられていた。

 その作者こそ、シダックスを一代で築き上げた創業者であり、現在も取締役最高顧問を務める志太勤氏だ。

 志太氏は韮山町(現伊豆の国市)に生まれ、教員だった父は戦後、文房具店を営みながら田畑を耕し、自給自足の生活を送った。生家の裏にはブドウ畑があり、家の地下のみそ蔵にぶどう酒の一升瓶が並んでいたという。

 上京した志太氏は1959年、富士フイルム現像工場の食堂「富士食堂」(東京都調布市)の運営を請け負い、翌年に富士食品工業(現シダックスフードサービス)を設立。その後、学校給食などのフードサービス事業や車両運行サービス事業へと業態を広げ、町の食堂を連結売上高1000億円超の巨大企業グループへと成長させた。

 ワイナリーの一室には、志太氏がこう回顧するパネルも展示されている。

「事業家として大変な苦難の連続であったが、苦しい時にはかならずと言っていいほど故郷での子供の頃を思い出し、また楽しい時には故郷の友や野山を思い出し、いつも心の内にはなつかしい故郷があった」

 そして55歳のとき、ワインで有名な北海道・十勝の町長から「ブドウ作りはロマン」という話を聞き、志太氏は「伊豆の故郷にたくさんのブドウを実らせてみよう」と思い至ったという。

 89年に試験農場を開設し、伊豆に適したブドウ栽培のために試行錯誤を繰り返しながら、2000年にオープンしたのが「中伊豆ワイナリー シャトーT.S」だった。

 それは立身出世を果たした男が、故郷へ錦を飾った象徴であり、本人がそう言うように「心の魂」の地だ。

 だがシダックスが、オイシックス・ラ・大地の子会社として上場廃止の道を進むきっかけが、このワイナリーにあるのだとすれば、因果を感じざるを得ない。

 本特集『シダックス 謀略ゲーム』で報じたように、22年にオイシックスが仕掛けたTOB(株式公開買い付け)を成立させるべく、メディア、コンサル、弁護士を巻き込んだ「謀略」の数々が、シダックス調査委員会の報告書で明らかになった。

 最大の疑問は、なぜ志太家がそうまでしてオイシックスへの株式譲渡に執着したかだ。

 その秘密は、このワイナリーに隠されている。