巷では「DX」「DX」の大合唱が呪文のように続いています。しかし現場からは、「仕事が増えただけで売上はなかなか上がらない」という悲鳴が聞こえてきます。そんな悲劇を解決すべく、1000社以上の問題を解決してきたITコンサルタント・今木智隆氏が書き下ろしたのが『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)です。本連載では、さまざまなデジタルの「あるある」失敗事例を挙げながら、なぜそうなってしまうのか、どうしたら問題を解決できるのかをわかりやすく丁寧に解説していきます。ECサイトやSNSの運営に携わっている現場の方、デジタル広告やデジタルマーケティングに関わっている現場の方はぜひご一読ください。
大目標を共有できていない部署同士が足をひっぱり合う
企業で働いている限り、「ブルシットジョブ」(無意味な仕事)と完全に無縁でいることはできませんが、少なくとも自分が行っている作業が売上に貢献できるものか、それともただのブルシットジョブなのか、個々人が自覚的ではあるべきでしょう。
売上を増やすことに貢献する、そうした大目標を個々人が持っていて共有することができれば、チームや部署、部門間で連係して、より効果的なデータ分析を行うことが可能になります。逆に、大目標を共有できていないと、部署同士が足をひっぱり合うことになってしまいます。
マーケティング部門と営業部門の対立なども「あるある」でしょう。
例えば、KPIを資料請求の件数にしたとして、マーケティング部門は資料請求を500件にする、営業部門は見込み顧客の10パーセントを成約するという目標を立てたとします。
大目標を共有できていない場合、何が起こるでしょうか。
まず、マーケティング部門はひたすら資料請求の件数を増やそうとします。検索広告やSNSなど、チャンネルを増やせば、件数を増やすことはそれほど難しいことではありませんから。「資料請求したら、クオカード500円分プレゼント!」などというベタな手を打つことすらあるかもしれません。そうやってマーケティング部門がなりふり構わずに励んだ結果、資料請求の件数が750件、なんと目標の1.5倍です。
けれど、営業部門は大変です。750件の見込み客といっても、クオカードに釣られて申し込んできたような人に営業電話をかけたところで、成約は見込めそうにありません。営業部門がマーケティング部門に対して「質の低い見込み客を送るな!」と文句を言うと、マーケティング部門はデータをいじくり回して細かく場合分けし、成約率の高そうな経営者400人分だけを抽出して営業部門に見込み客として送る。「目標は500人なのに、100人も足らないじゃないか」と文句を言われたら、マーケティング部門はまた数字をいじって「経営者の成約率は他の見込み客の1.5倍なので、400人分の経営者は通常の見込み客600人分に相当します」などという理屈をひねり出すことになります。
ここで挙げたマーケティング部門と営業部門のような対立を、私はこれまで何百回となく見てきました。「資料請求件数がKPI」というのは、いつの間にかどこかに飛んでいき、何のためにKPIを達成しようとしているのか誰もわからなくなってしまいます。
結局のところ、全体としてどれだけの利益を上げるのかという大目標を共有できていないために、数字の辻褄を合わせるために無目的にツールを使うという本末転倒な羽目に陥ってしまうのです。
仮にマーケティング部門と営業部門で、大目標が共有されていたらどうでしょうか。資料請求件数というKPIは達成できていなくても、売上や利益を向上させるための施策を、マーケティング部門と営業部門が連係して打ち出すことができます。その結果をきちんと数字で経営陣に示すことができればよいわけです。
※本稿は『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。