佐藤優「台湾有事になれば沖縄が…」政府が想定も法整備もしていない深刻事態の危機1月28日、沖縄県庁で林芳正官房長官と玉城デニー知事が会談した。玉城知事は、県が承認していない名護市辺野古の埋め立て工事を中断して県との対話に応じるよう求めた Photo:JIJI

沖縄県が強く反発する中、国は新基地建設のため、辺野古沖の地盤改良工事に着手した。だが、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は「三つの理由で辺野古新基地への移転は難しい」と分析する。
(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)

辺野古新基地への移転が難しい
3つの理由

 米軍普天間基地の移設先に決まっている名護市辺野古沖の地盤改良工事に関して、日本政府は昨年12月28日、沖縄県に代わって工事を承認する代執行を行いました。地方自治法に基づく初めての代執行という異例の事態です。

 年が明けて1月10日、工事が始まりました。林芳正官房長官は同日の記者会見で、「着実に工事を進めることが普天間基地の一日も早い全面返還を実現し、危険性除去につながる」と語りました。

 しかし筆者は三つの理由で、普天間から辺野古新基地への移転は難しいと考えています。

 第一の理由は、以前から指摘されている軟弱地盤の問題です。予定地の地盤はマヨネーズに例えられるほど軟弱で、地下90メートルの深さに達しています。これほどの軟弱地盤を埋め立てる工事は、世界に前例がないそうです。

 おのずと、費用も膨大になります。総工費は当初「少なくとも3500億円」という見積もりでしたが、軟弱地盤対策のため9300億円に引き上げられました。ところが、まだ地盤改良工事が始まっていない2022年末の時点で、4312億円も使われています。この先、どのくらい膨らむのか。

13年後の沖縄に
海兵隊がいる必要があるのか

 完成は早くても37年だそうですが、そもそも完成できるのかさえ疑問です。加えて、いまから13年後の安全保障環境が不明です。沖縄に海兵隊がいる必要があるのかどうか。

 現実的に想定されるのは台湾有事ですが、「ウクライナを見てみろ。次は台湾危機だ」とあおる意見には飛躍があります。膠着状態のウクライナ戦争を眺めている中国の習近平国家主席は、「やっぱり軍事力でいくべきだ」と決意するでしょうか。それよりは経済成長に注力し、台湾が自ら引き寄せられてくるまで機が熟すのを待つシナリオを取ろうと考えるのが、自然ではないかと思います。

 今年11月の米大統領選挙でドナルド・トランプ前大統領が復権すれば、在韓米軍や在沖米軍を再編する可能性があります。あるいは、「もっと金を出せ。駐留米軍の費用を全額負担した上で、さらに米国が得する分を出さないなら、引き揚げる」というディールを持ち掛けてくるかもしれません。

オスプレイは構造的欠陥で生産終了
“お人よし”の日本以外は購入見送り

 ちなみに、新基地が完成すれば海兵隊の航空部隊の拠点となって、輸送機オスプレイの運用が予定されています。ところがそのオスプレイについて、米国防総省は26年までに生産を終了すると決めました。構造的欠陥による墜落事故が相次ぎ、死者がたくさん出ているためです。

 昨年12月9日の『沖縄タイムス』は、こう報じています。

米国防総省は当初、米国外から400~600機の受注を見込み、1機当たりのコストを抑えられると予想していた。しかし実際には日本が17機購入したのみで、イスラエルなどオスプレイ導入に高い関心を示していた国々は次々と導入を見送り、最終的な単価は1機当たり約9千万ドル(約130億円)となっていた

 日本のお人よしぶりが、改めてわかります。