このまま何の対策も講じなければ、2030年度に34%もの輸送力不足が発生するといわれる日本の物流――。トラックドライバーをはじめとする物流業界の働き手不足は年々深刻さを増している。そうした状況は、宅配便を中心に幅広く事業展開する最大手の1社、佐川急便にとっても同様だ。

同社の吉田貴行取締役は「今後も、業界では労働力人口の減少が避けられない中で、これまでの延長線上の取り組みだけでは、将来にわたって安定的なインフラを維持することが難しくなっていきます」と強い危機感を示す。

パートナー企業と共に総力戦で「持続可能な物流」構築に挑む佐川急便 東京本社
吉田貴行取締役 
経営企画担当 兼 経営企画部長

2年連続で運賃値上げに踏み切った理由

そうした中、同社は昨年4月に続き今年4月にも「飛脚宅配便」を中心とした宅配便届出運賃の値上げを行う。2年連続での基本運賃の改定は同社にとって初めてのことであり、物流を取り巻く現状がいかに厳しいかを端的に物語っている。

「前回の改定でパートナー企業さまとの取引単価の見直しや従業員の処遇改善などを実施しましたが、それ以降も燃料をはじめとする諸物価の高騰が続いています。コストを吸収すべく、さまざまな取り組みを実施していますが、今年4月に平均7%の値上げを行うことで、宅配便インフラを支えていただいているパートナー企業さまにもさらに還元していきたい」と取り組みへの理解を求める。今回の値上げでは、あえて実施半年前の昨年10月に発表することで、顧客への事前周知を徹底するとともに、世間に対し運賃を上げざるを得ない物流業界の経営環境の厳しさをメッセージとしても強く打ち出している格好だ。

中継センターで幹線輸送を整流化

持続可能な物流の実現が大きな課題となる中で、佐川急便は社会インフラでもある輸送ネットワークを安定的に維持していくために、どのようなことに取り組んでいくのか。

まず、幹線輸送を中心としたネットワークの効率化策として取り組んでいるのが「中継センター」の整備だ。中継センターは、日々大量の荷物が行き交う輸送ネットワークの要として、荷物を集約して方面別に仕分けをするなど“整流機能”を担っている。これにより、トラック1台当たりの積載率を向上させて運行台数を最適化していくほか、自動化・機械化を進めることで、より少ない人員でのオペレーションを可能にしていく。

現在、SGホールディングスグループ最大級の物流施設「Xフロンティア」Ⓡ(東京都江東区)内に1時間当たり10万個という高い処理能力を持つ中継センターが稼働中だが、26年2月、その隣接地に新たな中継センターを開設し、関東エリアにおける中継機能を強化する。また、同年7月には兵庫県尼崎市にも大型中継センターを新設し、東西で輸送ネットワークをさらに効率化していく。

長距離を中心とした幹線輸送では、トラックと比べて大量輸送が可能な鉄道やフェリーへのモーダルシフトも拡大する。特にフェリーでは、21年7月に就航した横須賀港~新門司港間の新規航路を利用して、関東~九州間の幹線輸送の一部を海上輸送に転換した。「トラックドライバーの労働環境改善とCO2削減のために鉄道やフェリーの利用を増やし、幹線輸送のモーダルシフトを進めていきたい」と語る。