富岡八幡宮の伊能忠敬像富岡八幡宮の伊能忠敬像 Photo:PIXTA

定年が近付いてきて、あるいは定年後の生活に突入して「どう過ごそう」「何をしよう」と戸惑っている人は、改めて「自分が本当にやりたいこと」に向き合ってみることをおすすめする。そんなものはない、考えても仕方がない、という人に、ある偉人の人生を紹介したい。その人物とは、江戸時代、日本地図をつくったことで知られる伊能忠敬(いのう・ただたか)だ。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)

 定年が近づいてくると、定年後どう過ごしたらいいのだろうと不安を感じる人も多いだろう。また、実際に定年後の生活に突入し、どう過ごしたらいいかと戸惑っている人も多いようだ。そんなとき思いを巡らしてほしいのは、今の仕事、あるいはこれまでの仕事以外にも、何かやりたいことや理想の過ごし方があったのではないか?ということである。

 例えば、生計の維持に重点を置いていたときは、「そんなことをして食っていけるわけないし」と断念したことや、忙しさに紛れて忘れていたけれど「こんな風に過ごせたらいいな」と思ったことが、何かあったのではないだろうか。そんなことを思い出せば、定年後の過ごし方にも希望が見えてくる。

日本地図を作製した伊能忠敬も、
引退するまでは商人だった

 第二の人生で本当にやりたいことに乗り出した人物の代表として、日本地図の作製に執念を燃やし、ついに完成させた伊能忠敬を挙げることができる。あれほどの偉業を成し遂げたのだから、生涯を懸けて全国を測量して回ったと思われがちだが、実は今で言えば定年退職後の第二の人生で、初めて日本地図の作製に着手したのであった。

 忠敬は、引退までの人生においては、日本地図の作製とはまったく無縁の生活を送っていた。17歳のとき今の千葉県佐原の酒造家である伊能家に婿入りした忠敬は、そこで商才を発揮し、伊能家の繁栄のために尽力し、事業に大いに成功した。