三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第67回は、ベンチャー投資の本質と「NISAの先」を考える。
ホリエモンが熱く語った言葉
ベンチャー村に参加した主人公・財前孝史はホリエモンこと堀江貴文氏と出会う。出資を求める起業家たちの中で「不老不死をビジネスにします」と奇妙なアイデアを披露した学生に、ホリエモンと道塾学園創業一族の藤田慎司が投資を即決する。
先日、ベストセラー『きみのお金は誰のため』が話題の社会的金融教育家・田内学氏とYouTubeチャンネル「高井宏章のおカネの教室」で対談した際、私は「NISAの先」の金融の姿として「バカバカしいプロジェクトにまでお金が流れるようになること」と話した。
一介の学生の中川が披露する「20年後の不老不死」は、荒唐無稽なプロジェクトの典型だろう。作中では、その無茶なアイデアにそれなりの大金が投じられる。これは私が考える「NISAの先」のイメージに近い。そこにはベンチャーとイノベーションの本質がかかわっている。
ひとつは「多産多死」。新ビジネスのほとんどは失敗に終わり、数%だけが生き残る。その生き残りの中から稀に「大化け」が出る――これがベンチャーだ。
その前提でエコシステムを回すためには、「ダメで元々」と思える投資家側の高いリスク許容度と、多死にひるまない起業家側の無謀さが必要になる。アニマルスピリットは両サイドに必要なのだ。
もうひとつの大切な本質は、起業家が投資家に差し出すのは「アイデアと時間」という点だ。不老不死の追求はまともな神経で挑めるテーマではない。だが、提案者の中川は本気で貴重なキャリアをつぎ込む決意をしている。投資家は、その異常な熱量と中川が費やすであろう時間、いわばエネルギー総投入量に賭ける。
これは大航海時代の冒険家とパトロンの関係のようなものだ。作中でホリエモンは「新しい発想や技術で世の中をもっと便利に面白くするため」と熱く語る。
ベンチャー投資と年金・投資信託の相性が悪いワケ
「世界を変えたい」という熱意が起業家とベンチャー投資家の本質であり、「利益は後からついてくる」が理想だ。特に、成長ステージで言えばいわゆるシードからアーリーに当たる創業期はそうした側面が強い。
こうした本質を考えると、ベンチャー投資は年金や投資信託など他人のカネを預かる資産運用ビジネスとは相性が悪い。誰かに説明責任を負っていると、ロジックより感性を優先するような無茶はやりにくいし、やるメリットも小さい。
シリコンバレーがそうであるように、ベンチャーのエコシステムが回るためには、自分自身の判断でリスクをとれるマネーが欠かせず、だからこそ、有力な資金の出し手は元起業家に偏る。
つまり起業家の塊りが育たなければ、起業家が育つ土壌はできない。ニワトリとタマゴのようだが、ITバブルから四半世紀が過ぎて「ベンチャー村」は大きくなってきた。ベンチャーキャピタルを通じて「出口」に近いステージの企業には十分にお金が流れるようになっている。出口の先の上場株市場にはNISAマネーが控える。
投資マネーがイノベーションを生む循環が日本に定着する日は、そう遠くないと私は楽観している。