「フォワードガイダンス」で考える
日本銀行の金融政策の行方とは
日本や米国をはじめ、現代の金融政策運営では、「フォワードガイダンス」が重視されている。これは、将来の金融政策について方向性を示すことを言い、主要な政策手段とされているものである。
主に市場参加者への理解を促し、中銀の意図する方向への市場価格の織り込みを進め、それにより望ましい金融環境を実現する狙いがある。金融環境は、企業の生産や雇用、物価に影響を及ぼすため、金融政策の判断において重視されている。
中でも、長期金利への影響が重要である。10年物国債の利回りに代表される長期金利は、中央銀行が決める短期金利の水準や今後の短期金利がどうなるかといった、市場の予想が反映されている。加えて、日本銀行のように国債を買い続けている場合には、国債の買い入れ方針も大きく長期金利に影響を及ぼす。よって、今後の日銀の金融政策の方向を考える場合、長期金利がどうなるかを見ていく必要がある。
日銀は、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを目指すと前置きしたうえで、金融政策の先行きについて、次の二つのフォワードガイダンスを示している。これらは、いずれも長期金利に影響を及ぼしている。
一つは、「物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』を継続する」という方針である。
もうひとつは、「マネタリーベースについて、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する」というものである。
裏返せば、これらのフォワードガイダンスに示された条件が満たされれば、上記の金融緩和を変更する可能性があることを示唆している。
前者は、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)に言及したものであり、短期と長期の金利を下押しすることで、イールドカーブの傾斜を極めて緩やかなものにする政策である。短期金利は日銀当座預金の政策金利残高に「-0.1%」のマイナス金利を維持する一方で、長期金利(10 年物国債金利)はゼロ%程度で推移するように、上限を設けず必要なだけ長期国債を買い入れる、と明記している。
ただし、実際の運用では、10年金利については上限を設定してその範囲内で少し変動することを容認しており、上限を「1.0%をめど」としている。これはめどなので、多少1%を超えてもよいとされている。
そして、マネタリーベースとは、銀行券発行残高と当座預金の合計である。日銀が長期国債や銀行などへの資金供給を行い、バランスシート拡大によってマネタリーベースも増大する。現在は、国債買い入れの継続が、最もマネタリーベースの拡大に貢献している。
10年金利水準について1%程度を原則下回る状態に抑えるため、また、マネタリーベースの拡大のために国債買い入れを続けた結果、日銀が保有する長期国債は現在発行残高の54%程度にまで増えた。
以降、日銀の金融政策の現状と先行きを巡り、幾つかの具体的なシナリオを想定しながら、さらに深掘りの分析を進める。その上で、3月18~19日の政策決定会合におけるマイナス金利政策の撤廃観測を巡る、筆者の見立てを記述。このほか、マイナス金利政策を含む長短金利操作の撤廃より、長期金利の観点から重要度が高いと言える日銀の「次の課題」の存在などを展望する。