「日本最大のドラッグストア連合体を創成する」
2月28日、イオンはグループ傘下に持つウエルシアホールディングスと、ツルハHDとの経営統合を発表した。観測報道が絶えないなか、ようやくの発表に、業界関係者らは「ついに大きな波が来た」と身構えている。
業界最大手のウエルシアと2位のツルハが一緒になれば、売上高は実に2兆円以上。札幌まで駆け付けて記者会見に臨んだ、イオンの吉田昭夫社長が何度も強調したように、文句なしに「日本最大」のドラッグストア企業が誕生する。
そんな両社が急接近するキッカケをつくったのが、“モノ言う株主”として知られる香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントだ。23年はツルハHD、クスリのアオキHDとドラッグストア業界を荒らしまくったオアシスだが、次はいよいよ調剤チェーンにも触手を伸ばそうとしている。
まず、オアシスが23年のドラッグストア業界で何をしてきたかを振り返ろう。
オアシスを創業したセス・フィッシャー最高投資責任者は、とにかく日本の「縁故主義」が大嫌い。同族経営会社ばかりを次々に標的とし、株を買い占めて創業家排除の株主提案を仕掛けてきた。
なかでも目をつけていたのがドラッグストア業界だ。まずは23年6月、ツルハの「創業家による企業支配」を問題視。業界再編を進めるためにも、鶴羽順社長の父・鶴羽樹氏が就く取締役会長職の廃止や、社外取締役候補5人の選任などを要求した。
次に、ツルハと同じく同族経営会社であるクスリのアオキにも「キャンペーン」を展開。7月には、社長の青木宏憲氏と、その弟である副社長の孝憲氏の退任を求めた。
もっとも、業界を大きく揺るがす出来事ではあったが、ツルハでもアオキでも、オアシス側の提案は株主総会で否決に終わっている。このときツルハの窮地を救ったのが、95年から業務提携関係にあり、同社の株を13.6%保有していたイオンだ。ウエルシアを傘下に持つイオンは「大手同士の再編の重要性」を匂わせながら、株主総会前にツルハ側を支持する声明を発表。オアシス提案の否決に結び付け、ツルハ側に貸しをつくった格好になっていた。
その後、ツルハがMBO(経営陣による買収)を模索しているとの噂も流れるなか、今年に入ってイオンが行動を開始。オアシスが保有していた12.8%のツルハ株の取得に動いた。オアシスが持つツルハ株をすべて買い取れば、保有比率は26%に達する。
ツルハがイオンの持分法適用会社としてグループ入りとなれば、当然、次に予想されることはイオン傘下にあるウエルシアとの経営統合だ。こうした経緯があって、ようやくの正式発表だったというわけだ。
ウエルシアの23年2月期売上高1兆1443億円に対し、ツルハの23年5月期は9701億円。ウエルシアのほうが売上高では上回る。だが、今回の経営統合でイオンは、ウエルシアの名前は残しつつツルハを親会社にすることで、創業家の顔を立てる配慮も欠かさなかった。複雑な状況に置かれた鶴羽社長は会見で、ウエルシアとの上下はあっても「精神は対等」と述べつつ、オアシスに関しては「コメントする立場にない」とそっけなく答えている。
いずれにせよ業界トップ同士の統合により、2兆1144億円を売り上げる巨大企業となる見通しだ。とくに調剤に力を入れてきたツルハとウエルシアだが、調剤併設店は計2869店舗に達し、調剤チェーン最大手のアインHDの2倍以上に達する。調剤事業だけの売上高で見ても、計3406億円とアイン並みの数字だ。調剤薬局としても、これからドラッグストアの存在感が増してくる。
さらにイオンは、すでにタイやシンガポールに拠点を持つウエルシア・ツルハ両社の強みも踏まえ「統合5年以内に3兆円」の売上高も視野に入れている。3兆円と言えば、アジア最大のドラッグストアチェーン・ワトソンズ(香港)に並ぶ規模だ。実現するには、さらなるドラッグストアのM&Aが手っ取り早い。
では、イオンは次にどこを取り込むのか。業界関係者の間では、専ら次の買収先は「アオキなのでは」と見る向きが強い。実はイオンは、ツルハと同じくオアシスから揺さぶりをかけられたクスリのアオキの筆頭株主。プライベートブランドやスタッフの教育・研修で連携する、イオンのドラッグストアグループ「ハピコム」のメンバーというつながりもある。
ちなみにメディカル一光の株も27.14%保有、持分法適用会社としている。
一方、ツルハとウエルシアの経営統合の記者会見前日には、業界6位のスギHDが全国500店舗超の阪神調剤薬局を運営するI&Hを買収するとの発表も飛び出した。ドラッグストア同士どころか、ドラッグストアが調剤チェーンを飲み込むという構図は、ツルハ・ウエルシア以上に薬局経営者らに衝撃をもたらしたようだ。