ウェブアクセシビリティが企業選びのポイントの一つになる可能性も
未来志向の採用戦略を考えるうえで避けては通れない

――ウェブアクセシビリティ対応というと、具体的にどのような機能が実装されているのでしょうか?

本田 たとえば、目が見えない方を想定した場合、「スクリーンリーダー」というウェブサイトを音声で読み上げるソフトウェアを用いて、耳で聴いて理解できるようにします。あるいは、肢体が不自由でマウスを使えない方のために、キーボードのみでも操作できるような作りにする、といったことも行われます。

堀江 いま挙げたのは障害のある方を想定したケースですが、ほかにも高齢で小さい字が見えづらい方や、日本語がわからない外国人にも対応できるようにしたり、視差効果で画面酔いしがちな方の特性に合わせたりと、多様なポイントがあります。企業側としては、優秀な人材に来てもらいたいと思っているのに、その優秀な方々が採用サイトの情報にアクセスできなかったら意味がありません。そういった取りこぼしを防ぐためにも、ウェブアクセシビリティを向上することには意義があります。

――いまはまだ大きな潮流というところまでは行っていないかもしれませんが、この先、採用サイトでウェブアクセシビリティを考慮するのは当たり前になっていくでしょうか。

堀江 そうなると思います。逆に、いつまでもウェブアクセシビリティを向上しないままだと、感度が高い人たちからは古い体質の企業と見なされて、興味を持ってもらえなくなるかもしれません。先にも話に出たように、今の日本ではまだウェブアクセシビリティへの対応が義務化されてはいませんが、すでに国を挙げて対応を後押しするところまでは来ています。

 米国では「障害のあるアメリカ人法(ADA)」などの法律のもと、年間数千件のウェブアクセシビリティに関する訴訟があり、日本企業も米国支社などが訴えられるというケースも増えました。また、こうした事情とは別にGAFAMをはじめとしたテック企業などは誰もがサービスを利用できる社会的責任として非常に熱心にウェブアクセシビリティ向上に取り組んでいます。コストをかけて、ウェブアクセシビリティの向上に注力するのは、米国に限らず世界的な趨勢とも言えます。

――実際、株式会社学情によるZ世代の就活生を対象とした「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に関する情報収集」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001136.000013485.html)についての調査によると、就職活動において企業のダイバーシティ&インクルージョンへの考え方を知ると「志望度が上がる」という回答が6割を超えていました。今後、ウェブアクセシビリティを含めたダイバーシティ&インクルージョンの取り組みが、企業選びの視点の一つになっていく可能性は高そうですね。

本田 ユーザー目線を意識し、一人でも多くの人に情報を伝えたいという熱意を持った企業は、ウェブアクセシビリティを向上するでしょうし、相手にもやはりその思いが伝わるので、選ばれやすくなるのではないでしょうか。未来志向の採用戦略を考えるうえで、ウェブアクセシビリティは要になってくると感じています。

株式会社トルク代表取締役の本田一幸氏とCTO / Design Engineer 堀江哲郎氏

■識者プロフィール

本田一幸 KAZUYUKI HONDA  株式会社トルク 代表取締役

本田一幸 KAZUYUKI HONDA

株式会社トルク 代表取締役

ソフトバンクを経て、2006年前職のWeb制作会社取締役就任。数々の広告サイト、コーポレートサイト、採用サイトなどの制作プロジェクトを手掛けた後、2020年UI/UX、ウェブアクセシビリティ、サーバレスを専門とするデザインファーム株式会社トルクを設立。Webグランプリ アクセシビリティ賞など受賞多数。

 

堀江哲郎 TETSURO HORIE  株式会社トルク CTO / Design Engineer

堀江哲郎 TETSURO HORIE

株式会社トルク CTO / Design Engineer

2012年より、フロントエンドエンジニアとして活動を開始。Webプロダクション2社で、コーポレートサイト、メディアサイトなどの大規模サイト制作およびCMS製品開発を経験。2021年、株式会社トルクに入社し、2022年、取締役CTOに就任。ウェブアクセシビリティに配慮したJamstack・サーバレスアーキテクチャのWebサイト構築プロジェクトを中心に多数のプロジェクトを手掛けている。