ここで、兵法に精通している我が師から授かった、多角的視点が得られる「王・将・兵のエピソード」を紹介しましょう。

「組織は王・将・兵の三階層に分類できる。

 王は、直接兵と話してはいけない。現場に王が降りたら将は嫌がる。

 兵を舵取りするのは将の役割であり、王が介在すると将がやりにくくなるのだ。

 その代わり、王は将と徹底的に話したうえで、兵の扱いをドンと任せる。

 だから、王は将を使える人物である必要はあるが、兵を使える人物である必要はない。

 しかし、王と兵は心で繋がっている必要がある。なので、人の心を打つビジョンを語ることが重要なのだ」

 要するにリーダーは、全体を正確に把握して、ビジョンを語り、堂々と振る舞えば良いということ。あとは現場を統率するチームリーダーに任せればいいのです。筆者が人材登用や組織の作り方、自分自身のあり方について悩んでいた時に支えとなった大切な教えです。

『キングダム』の1~33巻、筆者が最も好きなシーンである「合従軍編」のクライマックスでは、この教えをさらに一歩進めた感動的なシーンが描かれます。

 複数国家の連合軍から同時に攻められ、絶体絶命のピンチに陥った秦は、国を守る最後の拠点「サイ」を防衛すべく、なんと大王・政が自ら戦地に出陣します。通常なら、政が戦場に姿を見せることはまずありません(大企業の社長が突然、取引先との商談の場に現れるようなものですから)。

 ここで、大王自ら民たちに語りかけ、ズタボロの状態の中でも士気を高揚させ、奇跡の防衛を果たす――、キングダム屈指の名シーンの一つですね。

「最後まで戦うぞ、秦の子らよ」

「我らの国を絶対に守りきるぞ!!」

 王が、初めて現場に降りたち、直接民に語りかける。この時の効果は絶大です。

 まさにこれらは、普段から大王・政がビジョン語り、兵からの信頼を集め、尊敬されていたからこそ、非常事態で将と兵、民の心を一つにまとめ、味方に勝利をもたらすことができたのです。

 王・将・兵(民)の役割をそれぞれ理解し、きちんと王の務めを果たしていたからこそ、最後の最後に自ら動く時に、民の心を打ち、ピンチを脱することができたわけですね。

 リーダーの誰もが参考にすべきエピソードといえます。