「ヴォヴォヴォヴォヴォボボーン」。ややくぐもった、けれども迫力十分なサウンドが室内に響き渡った。これがサウンドジェネレーターの奏でる快音というものか。
試乗の舞台はクラシックカー好きの集まり。アバルト500eの存在感にみんな興味津々集まってきた。アクセルを踏む役を友人に代わってもらい、外から音を聴いてみる。室内よりも随分と軽やかで心地いい。当然ながらエンジン車のように熱気を含んだ脈動感を感じることはない。けれどもワクワクする。集まったエンジンサウンド大好き仲間も、当初はこれが正真正銘のBEVであると信じてくれなかった。
走り出す。アクセルと連動して高まる“模造サウンド”を味わってみる。これまでも走りに合わせて電子音を聴かせるBEVはあった。けれどもここまでこだわったエンジン音はなかった。そこが確かに面白い。とはいえアバルト500eは新しい時代の新しいスポーツタイプの新しいコンパクトカーだ。いくらも経たないうちに音など要らないと思ってしまった。サウンドを切って走り直す。
BEVである前に真正アバルト!
運転好きを魅了するキャラクターに脱帽
フィアット500eはBEVらしからぬ調教された出足のスムーズさが魅力だった。ボクはBEVによくある強烈すぎる加速パフォーマンスを好まない。0→100㎞/h加速でランボルギーニより速いといわれても、“だからどうした”である。もちろん速いクルマは大好物。けれど、強力すぎる加速性能は飽きてしまう。何より危険だ。加速自慢のBEVを試すときには広い場所でローンチスタートを1回だけ試して、その凄さを体感。大笑いした後は二度とフル加速を試みない。だから結局のところ、過剰なほどの加速性能は必要ない。
アバルト版500eの加速はフィアット版に比べてもちろん強力だった。でも少しだけだ。想像していたほどバカっ速くない。だからガッカリだったかというとそうではない。オトナの電気自動車だなと感心した。それでもエンジン車の595より速いのだから、十分なパフォーマンスである。
スリリングだったのは中速域の浮き上がるような加速フィール。そして従来のガソリン版とはまるで異なるハンドリング性能だった。とくに後者は、街中ではかなり素直に、山道ではとても機敏に、いずれのシーンでもそれぞれの状況下で使いやすいと感じさせる仕上がりになっていた。BEVゆえの日常性重視と、アバルトならではのハイパフォーマンスが見事に両立している。
もっとも、そのように感じるには条件もあった。街中はツーリズモモード、山道ではスコーピオ系のモードを選ばなければならない。ドライブモード選択を積極的に使いこなしたほうが性能にも電費にもいいに決まっている。