まず、冷たいミネラルウォーターとエスプレッソを頼んだ。

 デミカップに半分ほどのエスプレッソなど一瞬で終わるから、ちっとも時間潰しにはならない。仕方なく、市販のジェラートを舐めながら外を眺めた。本来、立ち飲みが基本のバールでぐずぐずするのは野暮だが、こういう田舎のバールは融通が利く。

 何しろバス停の恩恵にあやかっている店だ。案の定、主人が助け舟を出してくれた。

「バスは、まだまだ来ないよ。すぐそばだから来ればわかるし、外は暑いから店で座って待っていればいいさ」

田舎のバールは
「村のよろず屋」

 店には、低いテーブルに椅子が2つ。腰かけて店の中を眺めまわすと、カウンターが占めるのは3割に過ぎず、残りはすっかり食料品で埋まっている。

 高い棚には、ありとあらゆるものがぎっしり詰まっていた。ココア、紅茶、緑茶。コーヒーは、地元の焙煎所「ジョリー」のものばかりでなく、ナポリの「キンボ」からトリエステの「イリー」、「ネスカフェ」のインスタントまである。煙草や葉巻も種類が多い。ビスケットにチョコレート、バターにヨーグルト、オリーブオイルや乾パスタ、トマト缶、アンチョビ、スパイス各種、アイスクリーム。オリーブの酢漬けやボイル済みのほうれん草と、惣菜もある。

 奥は、その場でサンドイッチを注文できる一角になっていて、ショーケースには、各地のチーズ、生ハムやサラミもおいしそうなものばかり並んでいた。

 さらに洗剤やトイレットペーパー、おもちゃまである。携帯電話が普及した今では、もはや絶滅危惧種となった公衆電話まであった。

 カウンターに視線を戻すと、リキュール類の他に、地元トスカーナの小さな生産者のキアンティやブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、ヴィン・サントなどが置かれている。レジのわきには、ポテトチップス、ガムやチョコレート……。

 バス待ちの外国人が、コーヒーを飲むうちに気紛れを起こし、土産にオリーブオイルやワインを買いたいと思い立っても、使える店だった。