価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

アイデアを生みだすために、最初にやるべきたった1つのことPhoto: Adobe Stock

「問題(原因)」と「解決方法」を
分離して考える

 どうすれば、エレベーターのイライラを減らすためのアイデアをたくさん生みだせるのか。さらに具体的に考えてみましょう。

「問題(原因)」と「解決方法」を分離して考えることが肝心です。

 原因については「待ち時間が長い」とすでに問題文に書かれていましたが、このままよりも、もう少し解像度を上げたほうがアイデアの土台になりそうです。

「待ち時間が長い」は、具体的にどのくらいの時間なのでしょうか? エレベーターのボタンを押してから5分以上かかってしまうのであれば、それは、「物理的」に時間が長いと言えるでしょう。

 しかし、人によっては30秒だとしても「待ち時間が長い」と感じる人もいるでしょう。その場合は、また違ったアプローチが必要になってきそうです。

 まずは、5分以上待たされると問題を仮定しましょう。ボタンを押してから実際にエレベーターが来るまで5分待たされるといった「物理的に待ち時間が長い」ことからイライラが生まれています。

 そして、問題が解決された理想の状態は、「ボタンを押してからエレベーターが来るまでの待ち時間を物理的に短くする」ということです。

「問題」と「理想の状態」の差分がアイデア

 ですから、考えるべきことは、この2つの差分を埋めるべきアイデアとなります。つまり、「待たされる時間を短くする」ためのアイデアを考えればいいのです。

 物理的に待ち時間を短くするアイデア、と考えると途端に考えやすくなりませんか?

 たとえば、エレベーターの速度を速める、などです。各階での乗り降りに時間がかかっていると仮定してみると、

 ・エレベーターの入り口の大きさを広げる
 ・エレベーター自体を大きくする
 ・開閉のスピードを速める
 ・「最後に乗った人が閉じるボタンを押しましょう」といったポスターを掲示する

 といったことが考えられるでしょう。

 上の階、下の階に行くための方法としてエレベーター以外に手段がないからイライラしているとします。違う手段でも早く行くことができればいい、と考えれば、

 ・エスカレーターを設置する
 ・階段の使用を奨励する

 などが考えられます。

思いついたアイデアは、全部書き出しておく

 思いついたら、アイデアは全部書き出してしまいましょう

 テレポーテーションできるようにする、滑り台を設置する、というアイデアは、そもそも科学的に不可能だったり、オフィスがあるようなビルにおいては無理なアイデアかもしれません。

 しかし、このような実現不可能なアイデアの断片も残しておくことで、いいアイデアをつくるための材料になることもあるので、全部書き出しておきます。

 実際、エレベーターの数を2倍にする、と言っても無理なように思えますが、実際にこのアイデアを実現させている例があります。

 ダブルデッキエレベーターといって、あらかじめ偶数階に行くときの乗り口と、奇数階に行く乗り口をエントランスで振り分けることで、2階建てのエレベーターにして運用しています。エレベーターの本数を増やすことなく、エレベーターのデッキの数を2倍にしているのです(図)。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤 安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター

1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。