わが子に最強の中高一貫校&塾&小学校 2025年入試対応#27Photo by Hiroaki Miyahara

学歴エリートを目指すべく、中学受験におけるSAPIXと大学受験における鉄緑会を頂点とする塾歴社会が定着して久しい。その一方で、教育格差を埋めるべく全国で増える無料塾の存在。その両者が暗示する日本の教育システムの根本的な欠陥とは何か?特集『わが子に最強の中高一貫校&塾&小学校』(全46回)の#27では、『ルポ 無料塾 「教育格差」議論の死角』(集英社新書)を上梓した、教育ジャーナリスト、おおたとしまさ氏に寄稿してもらった。

「塾歴社会」を象徴する
サピックスと鉄緑会

「合格おめでとう 次は東大!!」。最難関中学の入学ガイダンスや入学式が行われる校門前で配られる塾のチラシに躍る毎年恒例の文言だ。

 東京大学理科三類(東大理3。医学部系)を日本の受験ヒエラルキーの頂点とした場合、開成、桜蔭、灘、筑駒(筑波大学附属駒場)、駒場東邦、聖光学院など、そこにつながるルートとしての有名進学校には豊富なバリエーションがあるように見える。

 しかし、その学校歴を一枚めくれば、実はごく限られた一部の塾が受験システムの“勝ち組”たちの伴走役になっている。ごく一部の塾とは、首都圏の中学受験においてはサピックス、関西のそれにおいては浜学園。大学受験においては西も東も鉄緑会。早稲田アカデミーがサピックスを、馬渕教室や日能研関西が浜学園に追随する。

おおたとしまさおおたとしまさ/教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、育児・教育を主なテーマに執筆・講演・メディア出演などを行う。『ルポ名門校』(ちくま新書)、『勇者たちの中学受験』(大和書房)、『中受離婚』(集英社)など著書は計80冊以上。

 首都圏中学受験の男女御三家の総定員は1335人。2024年、サピックスからの合格者は868人、早稲田アカデミーからの合格者は545人で、この二つを合計するだけで、定員を超えている(実際の合格者は定員より多いし、二つの塾の合格実績には重複もある)。

 鉄緑会とは、1983年に当時の東大医学部および法学部の学生たちが中心になって東京・代々木につくった東大受験対策専門塾だ。後に大阪にも校舎ができ、いまでは東大・京都大学・国公立大学医学部受験対策専門塾をうたう。東京校と大阪校の実績を合わせると、例年、東大理3の合格者の5~6割を鉄緑会が占めている。

 鉄緑会東京校は、中学受験の最難関15校を「指定校」としており、中学受験で指定校に合格した者は、中1の春に限って入塾試験を免除される。つまり、サピックスや早稲田アカデミーのトップクラスの生徒の多くが、鉄緑会で再び顔を合わせることになる。

 例えば筑駒。中学入試の定員120人のうち、24年のサピックスの合格者はなんと98人にも上る。そして鉄緑会のホームページの24年1月現在のデータによると、筑駒中高の全生徒のうち7割以上が鉄緑会に通っている計算になる。

 その状況を私は、16年に拙著『ルポ塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎新書)としてまとめている。その後、中学受験の受験者数は伸び続け、過熱状態にある。ここでいう過熱には二つの意味がある。

 一つは、中学受験層の裾野が広がったこと。最難関までは目指さなくてもいいけれど、そこそこの私立中高一貫校に入ってほしいという控えめなスタンスの中学受験が増えた。その傾向は、24年の志願状況からも顕著だった。

 もう一つは、最難関中学を狙う層において過当競争が起きていること。各中学は、初見の問題にその場で対応する思考力や表現力を試すため、毎年新しいタイプの入試問題を出題するが、中学受験塾は、それを即座に分析し、解法をパターン化してしまう。そこでサピックスが教材を増やせば、他塾もそれ以上にやらせて対抗しようとする。結果、受験生の負担は天井知らずで増えていく。サピックスなどの中学受験対策塾に通うのみならず、その課題消化のために個別指導塾にも通ったり、プロ家庭教師を付けたりすることもいまではまったく珍しくない。