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日本人が新しい価値観のもと未来を切り拓いていくためには、海外からの視点が大きなヒントとなる。その際に留学の経験は非常に大事になってくるが、かつて多くの日本の若者を受け入れていたオーストラリアでは、いまや日本人留学生が年々減っているという。本稿は、デニス・ウェストフィールド『外国人には奇妙にしか見えない 日本人という呪縛 国際化に対応できない特殊国家』(徳間書店)の一部を抜粋・編集したものです。

日本の若者たちが
海外を敬遠する理由

 オーストラリア第5の都市、南オーストラリア(SA)州の州都アデレードは、バロッサバレーを擁するワイン産業や、航空・軍需産業で知られるが、もう一つこの都市を支える巨大産業に、教育産業がある。

 人口約140万人程度に過ぎないアデレードには、世界に門戸を広げる大学がアデレード大学と南オーストラリア大学(この2校は最近合併した)やフリンダース大学など5校もあるほか、ワインやフード産業の専門的職業訓練校や航空学校もある。

 筆者は先日アデレードを訪れる機会があり、アデレード大学の関係者らと外国人留学生の数について話をした。

 アデレードを中心とした南オーストラリア州への2023年時点の外国人留学生は約3万7000人で、コロナ禍からはほぼ回復したようだ。話を聞くと、アデレードは確かに、他都市と比べても教育環境は充実している。海外からの留学生に対して最もアピールできるのは生活コストの安さだ。シドニーなどの大都市と比べると24%も生活費が安いらしい。

 だがどの大学でも「かつては、日本人学生はもっと多かったのですが……」という言葉を口にした。彼らによると、留学生の数はコロナの時期を除いて順調に増えてはいるが、日本人の留学生だけは落ち込み続けているという。現在、日本人学生はわずか400人程度と、留学生全体の約1%にすぎない。

 また、オーストラリア最大のニューサウスウェールズ州にあるニューキャスル大学の2023年の卒業式には、当時の日本国大使だった山上信吾氏が呼ばれてスピーチをした。

 大学の卒業式に日本の大使が呼ばれるのは珍しいそうで、山上大使も意気込み、原稿を何度も練ったそうだ。スピーチは大変好評だったが、大使が卒業生を見ると、中国系や韓国系のアジア人学生は100人以上いたというのに、日本人学生は留学生を含めてなんと、たった一人もいなかったのだという。