科目数が格段に少なく、記憶力重視型の入試制度となっている日本の教育制度とは対照的だろう。

 さらに、オーストラリアは2021年に「教育制度改革」を実施している。その中で非常に興味深いのは、学部別に大学の学費を全面的に見直したことだ。オーストラリアに将来必要とされるエンジニアや農業などの選考科目の授業料を引き下げ、人文系の科目を逆に引き上げたのだ。

 これはまさに「国が将来どんな人材を育てていくのか」という国づくりの方向を示すものと言える。

 それによると、例えば、学費が最も安くなるのは数学や農業専攻の学生で、現在の年間9698豪ドル(約71万円)から3700豪ドルと約60%も安くなった。

 また、教育や看護、英語、臨床心理学を専攻する学生の学費は同3700豪ドルと46%、エンジニアリングやサイエンスなども21%それぞれ安くなった。

 これに対して逆に授業料が高くなったのは、人文学や社会・文化、コミュニケーション専攻で、学費は同1万4500豪ドルと、113%も上昇。また法律や経済、経営、商業の学費も28%引き上げられた。

書影『外国人には奇妙にしか見えない 日本人という呪縛 国際化に対応できない特殊国家』『外国人には奇妙にしか見えない 日本人という呪縛 国際化に対応できない特殊国家』(徳間書店)
デニス・ウェストフィールド 著/西原哲也 訳

 当時のテハン教育相は、「就職機会に関連した学科を専攻するインセンティブを高めることで、学生の就職を支援する」と説明していた。

 確かに、国が重視する科目に誘導するようなインセンティブを与えることによって、学生はそうした重点科目に間違いなく流れることになる。これは即ち、政府が描く国の将来像の方向性に若者を導いているということだろう。

 豪連邦議会の貿易・投資促進委員会は近年、サービス輸出機会に関するリポートを発表している。そのリポートでも、「オーストラリアは輸出立国であり、今後は保健、IT、金融といったサービス業で輸出の可能性が高まっている。……それなのに、オーストラリアはそうした分野の高等教育では海外からの学生に依存していることが露呈した」として、自国の学生が、国が将来必要とする業種スキルを学ぶことを奨励すべきだと提言している。