最大80兆円のタンス預金「あぶり出し」が裏目的?新紙幣発行の“意外な経済効果”とはPhoto:JIJI
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 ATMや自動販売機の台数減少で、新紙幣の発行に伴い発生する経済特需は以前に比べると少なくなっている。そうしたなか、新紙幣発行の一般的な目的や動機とされるのが偽造防止である。しかし、そのほかに今回の紙幣刷新には「キャッシュレス化の促進」や「タンス預金のあぶり出し」などの隠れた狙いも推察される。本稿では、約20年ぶりとなる紙幣デザインの刷新と今夏の発行開始に向けて、そのさまざまな効果を分析する。

ATM・自販機の減少で前回並みの特需は期待薄

 千円、五千円、一万円紙幣が2024年7月3日に一新される。前回の刷新は02年8月2日の発表で、04年11月1日に新紙幣の流通が開始し、24年まで20年間使用されてきた。

 今回の紙幣刷新でも、紙幣の図柄などの仕様が変更される。それに伴い、金融機関のオープン出納システムやATM、自動販売機などの更新に伴う特需が発生している。

 新紙幣には3次元ホログラムなど新技術を導入する一方で、前回と同様に紙幣の寸法の変更はない。このため、ハードウエアの更新需要は限定的とみなされ、ソフトウエアの更新需要が中心になりそうだ。紙幣刷新を発表した直後の19年4月10日、財務省が衆議院財務金融委員会で示した試算(注)によれば、今回の新紙幣による現金取扱機器の改修特需として約7,700億円が見込まれる。

 ただ、金融機関の店舗数の減少や、キャッシュレス化に伴う紙幣の取扱量の減少など、前回の紙幣刷新時とは事業環境が大きく異なっている。全国銀行協会のデータによると、銀行などのCD(現金自動支払機)/ATM設置件数は18年9月末の10万7,000台から22年9月末には8万9,000台まで減少した(図表1)。

 その中でも、コンビニエンスストアなど小売業店舗向けのATMは店舗数の増加などから、前回よりも更新需要が拡大することが期待される。日本フランチャイズチェーン協会のデータによると、コンビニの店舗数は10年の4万3,000店から22年には5万7,000店まで拡大している。しかし、こうしたATMは、金融機関向けよりも改修単価が安く、更新サイクルが短い点には注意する必要がある。

 自動販売機の台数も減少トレンドにある。日本自動販売機工業会の調査によると、10年までは520万台を維持していたが、22年末時点では397万台まで減少した。

 以上から、今回の紙幣刷新に伴うATMや自販機の改修特需は、前回ほど大きいものは期待できず、特需の出現時期も分散すると予想される。