ダイハツ工業や豊田自動織機での検査不正を受けてガバナンス強化に乗り出すトヨタ自動車。3月には社外取締役と社外監査役の役割の明確化と、独立性判断に関する基準の見直しを発表したが、目新しさに欠け、ガバナンスの改善効果を疑わざるを得ない内容だった。今回発表した基準と取締役と監査役の人選のどこに問題点があるのか、ガバナンスの専門家2人に聞いた。(ダイヤモンド編集部 宮井貴之)
不正を受け、社外取締役の基準を見直したが
「基準の変更はパフォーマンスだ」と専門家
「責任者として、もう一度トヨタグループ、トヨタ自動車を見ていきたい」――。1月下旬に不正の再発防止を含む「トヨタグループビジョン」の発表会見でトヨタ自動車の豊田章男会長はこう表明した。それ以降、ダイハツ工業の新体制を発足させたり、トヨタグループの社員と現場の課題について対話したりして、ガバナンスの改善に躍起になっている。
その一環で3月下旬には、社外取締役と社外監査役の役割と期待の明確化と、独立性判断に関する基準を見直した。
社外取締役の役割や期待については、「トヨタフィロソフィー」に共感できる点など5項目を定義。独立性判断基準については、「関係会社所属歴」「主要取引先」「主要借入先」「多額報酬専門家」「多額寄付」「主要株主」「関係監査法人」「近親者」「役員相互派遣」「在任期間」の10項目を設け、いずれも該当しない場合は独立性があると判断するとした。
これにより、社外監査役だった弁護士の酒井竜児氏が退任することになった。酒井氏が所属する法律事務所が「主要取引先」に当たるためだ。
上記の役割の明確化や独立性判断基準の厳格化などを見れば、昨年ダイハツ工業や豊田自動織機で検査不正が相次いで発覚したことを受けて、トヨタがこれまで以上にガバナンス強化に乗り出したようにも見える。
しかし、である。新たな基準は設けたものの、退任した酒井氏以外の社外取締役や社外監査役は、ダイハツなどの不祥事の責任を取ることなく続投する見通し。しかも、酒井氏の後任も、ガバナンスの強化につながるような人選とはとても言えないのだ(詳細は後述する)。
トヨタの取締役選任では、実は昨年の定時株主総会でも一悶着(ひともんちゃく)あった。米議決権行使助言会社であるグラスルイスが、取締役候補者10人のうち、トヨタから独立していると見なせるのは3人だけだとして、章男氏の取締役選任議案に反対するよう株主に推奨したのだ。これ以外にも、トヨタのガバナンスを巡っては、常々問題視されてきた。
今回のトヨタが発表した社外取締役と監査役の問題はどこにあるのか。次ページでは、ガバナンスの専門家2人から問題点について指摘してもらう。