しかも、兄弟たちはみな安定した仕事に就いて、ゆとりのある生活をしている。さらには、開発用の土地までナイジェリアで購入していたのだ。それに、姪のチトゥアはクラスで成績がトップだという。そんな彼女にいまの生活を捨てさせて、わざわざ英国で違法な暮らしをさせる理由がどこにあるというのだろうか。

穴があるシステム
アルゴリズムの欠陥

 結局、対応に疲れ果ててしまったチンウェイは、ビザの件を諦めようとした。だが、過去にも同じような話を何度も聞いてきた移民社会福祉協議会(JCWI)は、もうたくさんだと立ち上がった。そうして両者は、公正なテクノロジーの追求を目的とする団体「フォックスグローブ」とともに、内務省のビザ審査プロセスに対する司法審査を求めた。すると、同省の審査プロセスにはアルゴリズムの一種が使われていたことが判明した。

 問題のアルゴリズム自体は公にされず、その仕組みについても内務省は詳しくは明らかにしなかった。それでも、同省がビザ申請者に不法残留の恐れがあるかどうかを予測するための判断材料として、「疑わしい国」リストを使っていることが、司法審査の過程で明らかになった。

 この件以外でも、さまざまな目的で他国をリスク別に「緑色」「黄色」「赤色」などと分類するのが内務省の慣例だったが、移民社会福祉協議会はそれ自体が差別的だと主張した。要は、「疑わしい国」とみなされているナイジェリアからやってくる人は、その目的が不法残留ではないことを示すどんな証拠を提示しても、「不法残留の恐れあり」と判断されてしまうのだった。

 だが、この仕組みの真の問題は、ある国を「疑わしい国」リストに掲載するかどうかを判定するための要因の1つが、「その国からのビザ申請が、どれくらいの頻度で却下されているか」だったということだ。内務省は、そのアルゴリズムにフィードバックループをつくっていた。

 つまり、そのアルゴリズムでは、「疑わしい国」の国民であるという理由でナイジェリア人の申請が却下される。それに加えて、ナイジェリア人の申請がその理由で却下されるたびに、この審査システム内でのナイジェリアの「疑わしさ」の度合いが上がっていくようになっていた。