事業承継を機に店舗・メニューを大改革、女性客を中心に新規顧客層獲得を実現

標ぼうするのは“江戸前SOBAモダン”。おすすめメニューの一つ、「出汁香る完熟トマトそば」は、トマトベースの赤いつゆにオニオンフライやバジルがのり、オリーブオイルとタバスコが添えられる。見た目はまるでイタリアン、と思いきや、つゆを一口飲めば鰹節の出汁の味がしっかり口に広がる――。(取材・文/大沢玲子)

事業承継を機に店舗・メニューを大改革、女性客を中心に新規顧客層獲得を実現代表取締役 鈴木章司氏

 東京・青山通りの外苑前交差点に位置するそば店「青山外苑前増田屋」。創業85年を迎える老舗ながら、青山という立地に合わせ、伝統と革新を掛け合わせた斬新なメニューと店構えで人気を博す。

「創業から70年間ほどは中華そばやカレーライスなども提供する昔ながらの町のそば屋として、常連のお客さまに長く愛されてきました」。同店を経営する外苑前増田屋の3代目、代表取締役の鈴木章司氏はそう振り返る。

 近隣の神宮球場での野球やラグビー観戦後の宴会を兼ねたグループ客も多く、オフィスなどへの出前注文にも対応。だが、代替わりの節目を前に昔のやり方を踏襲していくだけでは店は退化してしまうという危機感から、「時代に合わせた改革を断行することにしました」(鈴木氏)。

店の理想像に合わせた
人材の採用・育成を推進

事業承継を機に店舗・メニューを大改革、女性客を中心に新規顧客層獲得を実現店は、東京・青山通りの外苑前交差点という都心の一等地に位置する(上)、落ち着いた内装で、さっと昼食を取りたいニーズだけでなく、家族でゆっくり夕ご飯を食べたいニーズにも対応(下)

 住み込みで働く従業員とは家族同然の関係で、世代交代に伴う軋轢はなかったが、“打ちたて・揚げたて”へのこだわりや、顧客目線を意識したサービスなどの変革を打ち出したところ、手間が増えることに反発し、辞める従業員が出てきた。

 人手を補うため早朝から深夜まで働きつつ、経営の在り方について悩む鈴木氏。その背中を押してくれたのが先代である父だった。

「こんな店にしたいという思いに沿って、人も新しく採用すればいい。ただし自分の責任で、しっかりのれんを守れ」。そんな言葉に奮起し、古参の職人にはのれん分けで独立を促し、新たに中途採用をスタート。

 出前も廃止し、買い物や観光目的の女性が多く訪れる立地に合わせた店舗へのリニューアル、伝統的な健康食であるそばを現代風にアップデートしたメニュー開発を決意する。