想像を絶するスピードとスケールで10兆円企業をつくりあげた経営者から学ぶべきことは多い。孫正義ソフトバンクグループ代表の評伝『志高く 孫正義正伝 決定版』(実業之日本社文庫)の著者井上篤夫氏が孫氏を深く知る人物と対談し、ビジネスパーソンに学びをお届けする連載「ビジネス教養としての孫正義」の第4回。対談相手はイノベーション研究の権威で一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏だ。経営者としての孫正義氏をどう評価するかと尋ねると意外な答えが返ってきた。同じ創業経営者でも、稲盛和夫やスティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツとはまったくタイプが異なるという。「なぜ孫正義は特別なのか」について、名だたる経営者と比較しながら語ってもらった。(取材・構成/ダイヤモンド・ライフ編集部 大根田康介)
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既存の経営学では評価ができない
井上 米倉教授に最初に伺いたいのが、「孫正義」という人物の評価についてです。孫社長は、自身が人類の歴史に名前を残すという熱い思いを持っています。経営学の観点では、どのように評価されているのでしょうか?
米倉 孫さんの評価は難しいですね。今も昔も、まるで海のものか山のものか、はっきりしない。もちろん、彼は起業家として、いくつもの事業で次々と成功を収めてきました。その点において、僕は彼を本当に魅力的な偉人だと思います。ただ問題は、一つの形容詞で表現しにくいことなのです。ホンダの本田宗一郎、ソニーの井深大、アップルのスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツのように、「ソフトバンクの孫正義」さんでいいのかということなんです。ソフトバンクはものを創っていませんし。
特に最近では、孫さん自身が起業家や事業家ではなく、ベンチャー企業に資金を提供する「資本家(キャピタリスト)」として見られていることも実像を不明確にしています。日本ではそうでもありませんが、アメリカのビジネススクールなどでは、最も人気のある職業がベンチャーキャピタリストだと言われています。ビジネスを立ち上げることも素晴らしいことですが、資金調達を支援し、その成長を支える喜びもまた重要です。
1996年、僕も日本のスタートアップ企業を支援する活動を始めました。それ以前は、アメリカの東海岸にあるハーバード大学で日本企業の研究をしていたため、正直「西海岸って何?」という感じでした。
一般的に、アメリカの企業では、社長と新入社員の給与に1000倍近い差があり、経営と現場が離れすぎていると言われていました。一方、日本では最大12倍程度の給与差で、経営も現場も一致団結して働くことが重視されていました。だから、当時は「そんな経営と現場が乖離したアメリカ企業に日本企業が負ける訳がない」と信じていました。
しかし、当時の法政大学の清成忠男教授から、「東海岸にいるだけでは何も分からないよ」と指摘され、実際に西海岸のシリコンバレーに行ってみると、まるでバットで後頭部を殴られたような衝撃を受けました。そこでは全く別のゲームが進行していたからです。