会社は「家族」で、社長は「父」という家族主義経営の末路

 このような「家族主義経営」は高度経済成長期の企業では当たり前のように行われてきて、今も同族経営企業や中小企業には根強く残っている。

 会社という「家族」の中で、社長は「父」であり、社員は「子」である。だから、社員は「家長」である社長の思想を素直に受け入れて、クローンのように動かなくてはいけない。そんなワンマン経営企業は、ビジネスモデルが当たれば急速に成長できる。経営にスピードがあって結束力も強いからだ。

「いい時」のビッグモーターがそうだ。同社にも「謎ルール」が多かったが、中でも話題になったのが、社員に配布されていた経営計画書だ。この中には、「会社と社長の思想は受け入れないが仕事の能力はある」社員について「今、すぐ辞めてください」とも記載されていた。

 創業者である「父」の思想を素直に受け入れることが「子」である社員の務めであるという「一体感」が、同社の成長エンジンになってきた側面もあるのだ。

 これは、いなば食品にもあてはまる。創業一族ではあるが、稲葉社長は缶詰事業だけでは先細りだとして、ペットフード事業に注力して今主力となっているブランド「CIAO」を誕生させてここまで会社を大きくさせてきた。そういう「偉大な父」の思想を「子」である社員たちが受け入れるのが当然だ、という企業文化であるということは、数々のタレコミが物語っている。

 ただ、このような「家族主義経営」は、残念ながら今の時代にマッチしない。「父のもとで一体感がある」という美徳がある一方で、パワハラ、セクハラ、低賃金、時間外労働みたいなことも「父の威厳」でねじ伏せて、「家族内の問題」として内々で処理してしまう傾向がどうしても強くなってしまうからだ。

 これは現実の家族関係に置き換えるとわかりやすい。とにかく威圧的でなんでもかんでも自分の思想に従わせようとする「父」のもとで育てられた子どもは、成長につれて反抗心が芽生えるはずだ。そして、父が何か理不尽なことをした時に怒りが爆発、積年の恨みをぶちまけるのではないか。それが社員の場合、メディアやインフルエンサーへの「怒りの内部告発」になっているのだ。

 日本企業は99.7%が中小企業で、9割は同族経営だ。それはつまり、高圧的な「父」のもとでワケのわからない「謎ルール」を押し付けてくる、いなば食品やビッグモーターのような会社だらけということだ。

 社員が週刊誌やSNSに怒りの内部告発をしないかとビクビクしている社長は、ぜひそっと胸に手を当てて、「自分の思想を社員に無理に押し付けていないか」と自問自答しみていただきたい。

(ノンフィクションライター 窪田順生)

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