価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になってくるのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。
先輩から直伝された強制単語法
これは、私が編みだしたものではなく、広告代理店で新人だったときについていた先輩が行っていたもので「強制単語法」と私は呼んでいます。
当時、先輩と2人で会議室にこもり、新しくつくる基礎化粧品のコンセプトをブレストしていました。そこで、ひとしきりアイデアを出し合って行き詰まってきたときに、ふと先輩がこう言いました。
「仁藤くん、何でもいいから今回のターゲットが読みそうな雑誌を持ってきて」
どういう意図かもわからないまま、ターゲットである女性20代後半から30代がメインの購読者である雑誌を3冊ほど集めました。
「どこか適当に開いて、書いてある文字を読んでみて」と言います。私は、言われたようにします。
書籍や雑誌から強制的に単語を取り出し連想して
アイデアを生みだす方法
「手持ちの定番をいかしながら、夏を乗り切る! 着回し30。いよいよ夏到来。オンでもオフでも、メリハリを上手につくって着回しができるのがファッション上手……」
と読んでいると「ストップ」と言われます。
そして、「オンオフ」「メリハリ」と先輩は言って、
「なんかさ、オンオフのスイッチになるようなスキンケアって、できないかな」と続けて先輩はアイデアを書きはじめます。
「たとえば、仕事から帰ってきたらスーツを脱いで部屋着に着替えるでしょ。その流れで、スキンケアするとしたら、どういうものがいいだろうか。オンオフの切り替えで言うと、ひとりでビールを飲むとか、そういう人もいるよね。晩酌しながら、スキンケアとかできないかな」などとアイデアを広げていきます。
そしてまた、ひと通りアイデアが出たら、雑誌の続きを読んでいきます。
「上手に休むのも仕事のうち。軽井沢の散歩道で深呼吸。タンクトップの上に羽織るのは……」と言うと、また先輩が「ストップ」と言います。
「深呼吸っていいね、もしかすると、香りで日常から切り離されてリラックスできるみたいなこととかもあるかも」と言って「森林浴マスク」とアイデアを紙に書いてみます。
すると、「軽井沢の散歩道」「白神山地での瞑想」「屋久島の雨と芽生え」といったように、それぞれの香りと効用の違うものをラインナップするのもあるかも、と広がっていきます。
というように、アイデアに行き詰まったときに、書籍や雑誌から強制的に単語を取り出して連想していくのです。
この「強制発想法」は、チームで行うときにも、ひとりで行うときにも有効な手段です。発想を広げていくときに、使ってみてください。
(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。