コミュニケーションが苦手ですぐに「マニュアルが欲しい」という人は何を考えているのか? Photo:PIXTAコミュニケーションが苦手ですぐに「マニュアルが欲しい」という人は何を考えているのか? Photo:PIXTA

「人とのコミュニケーションが苦手」という若者が増えている。しかし仕事においては、人との関わりを避けてばかりはいられない。特に、顧客対応など社外の人と接する社員が、相手の立場を配慮せず、キツい態度や物言いをしていては、会社として大きな問題になりかねない。注意をすると「言い方に気を付けろと言われても、どう言っていいかが分からない。マニュアルをください」という若手に対し、どのように指導したらいいのだろうか。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)

※本記事は『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)から抜粋・再編集したものです。

相手の気持ちに配慮できない

 就職の採用試験の際にコミュニケーション力を重視するという企業が多い。それは「人とのコミュニケーションが苦手」という若者が増えているからだ。誰もが人との関わりの中で生きてきているはずだし、そうした経験を通して自然にコミュニケーション力が身に付いているはずだと思っていると、どうもそうではないケースが目立つようになった。

 そんなコミュニケーションが苦手な従業員に手を焼く管理職は、つぎのような悩みを口にする。

「最近、他の部署から異動してきた若手がいるんです。うちの部署は顧客対応が必要なんですけど、どうもそれがうまくいかないんです」

『これまでは顧客対応をしないで済む部署だったんですか?』

「そうなんです。だから、はじめのうちは先輩たちの対応する様子を観察して学ばせることにしたんです」

『それは大事ですね。初めての職務だと、どうふるまったらいいか分からないでしょうからね』

「ええ。それで、そろそろ実践の場に出しても大丈夫かと思い、担当させてみたんです。そうしたら、一応コミュニケーションはできてるんですけど、身近で様子を見ている同僚たちによると、ちょっと言い方がキツかったり、相手がカチンと来るんじゃないかと心配になるようなことを平気で言ったりするので、ハラハラするって言うんです」

『相手の気持ちに配慮した言い方ができていないという感じですか』

「ええ、そうです。それで本人にその点を指摘して注意したんです。でも、どうもよく理解できないみたいなんです。具体的な事例を挙げて、もう少し相手の気持ちを考えて言い方を調整してほしいと伝えたんですけど、『何でもはっきり言ったほうが分かりやすいと思うんですけど』なんて、かなりズレたことを言うんです」

『言われた人の気持ちを想像することができないんですかね。だから、言い方を調整する必要を感じない。それで、あいまいな言い方をするより、はっきり言ったほうが分かりやすいということばかり意識してしまう、っていうことでしょうか』

「あー、そんな感じなんでしょうね。だからなんでしょうけど、言い方に気をつけるように言われても、どう気をつけたら良いのか分からないから、マニュアル(定型文)をください、なんて言うんですよ」

『定型文ですか』