あなたの職場の若手社員は、期待通りに成長しているでしょうか。

新卒で、右も左もわからない状態で仕事をし始める若手は、試行錯誤しながら、また周囲の社員の指導や刺激を受けながら、一人前を目指します。要領がよく、吸収力の高い者もいれば、ポテンシャルはありながらもなかなか伸びない者もいます。成長力の違いは持てる潜在能力、職場の指導環境、挑戦する機会の有無など、さまざまなファクターにより生じるものですが、指導する側にとっては、押さえておくべきセオリーがありそうです。

OJT担当者(トレーナー)は、自身の指導方法の課題を改善しながら、若手の成長促進に効果がある指導行動を実践することが求められます。

本連載では「指導上手の原則」を実践するうえでの課題をふまえ、OJTの指導ステップ別に指導ヒントを示します。(構成:ダイヤモンド社人材開発編集部 間杉俊彦)

連載開始にあたって
(監修 松尾睦)

優れたマネジャーになるための条件の一つが部下育成です。ドラッカーも「他人の育成を手がけないかぎり、自分の能力を向上させることはできない」と指摘しています。

 しかし、仕事がバリバリできる人でも、他人を指導する際には困ってしまうことが多いようです。現場のマネジャーに話を聞くと「原則論はわかっているけれども、具体的な指導の方法やスキルとなると自信がない」という声をよく聞きます。

 こうした状況を踏まえて、ダイヤモンド社と私は、日本企業で働くOJT担当者に対して大規模調査を実施し、OJT診断ツール(DLL)を開発しました。これによって、育て上手の大まかな特徴が明らかになったのです。その後、DLLを受験した方々から「さらに踏み込んだOJTのコツのようなマニュアルが欲しい」という要望が上がりました。

 この要望に応えるために、現場における「指導の成功例」を集めて体系化するプロジェクトを開始し、この度完成しました。その成果は『OJT完全マニュアル』としてダイヤモンド社から出版する予定ですが、今回の連載では、その一部をご紹介いたします。

OJT完全マニュアルは、いわゆるPDCAを「目標設定」→「計画立案」→「計画の実行」→「困難への対処」→「評価」→「学びの抽出」へと分解し、各ステップにおけるOJTのコツを解説している点に特徴があります。

この連載が、少しでもみなさまのお役に立つことを祈っております。

成長する力を伸ばす
経験学習とはなにか

 まず、経験学習について説明します。
 若手社員(トレーニー)の成長を大きく左右するのが経験学習です。

「経験学習サイクル」

 同じような仕事を経験しても、そこから学んで成長する人と、そうではない人がいます。これは経験から学ぶ力の違いから生じるものです。

 経験学習は、「仕事の経験をした後、その経験をきちんと振り返り、うまくいったこと、うまくいかなかったことを内省し、そこから教訓を導き出し、新しい仕事に適応することで深い学びを得る」ものです。この流れを示したのが上記の「経験学習サイクル」です。

 せっかくの経験も、やりっぱなしでは知恵に昇華しません。必ず振り返ってみること。それが学びにつながるのです。OJT担当者は、振り返りの際に、「うまく行った理由は?」「なぜ失敗したと思う?」というように、問いを発することで、トレーニーはより多くの気付きを得るでしょう。