「勝者のゲーム」と資産運用入門

金融政策発表を受け、日米主要株価指数は高値更新。
「日本の早まる利上げ vs 米国の遅れる利下げ」という構図はあれど、本格的な株高時代到来へ!太田忠の勝者のポートフォリオ 第129回

2024年3月26日公開(2024年3月25日更新)
太田 忠
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日米の中央銀行の金融政策発表を受け、日経平均は一時4万1000円台に

 日経平均株価は週間で2181円高、一時は4万1000円台乗せに―。

 先週は火曜日に日銀の金融政策決定会合の発表、そして水曜日に米連邦公開市場委員会(FOMC)の発表と、日米の中央銀行が相次いで金融政策を明らかにする重要な週となった。その結果を受けて米国市場は主要株価3指数が揃って最高値を更新し、日本市場でも日経平均が4万1000円台を付けて最高値を更新する展開となった。

 今年1月のコラム『2024年のマーケット展望』で私は次のように述べた。「今年は何と言っても日米中央銀行の金融政策転換が最重要だ。すなわち、米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めから金融緩和への転換、そして、日銀のマイナス金利から金融正常化への転換である」。それを占う金融政策会合が立て続けに行われたのだ。

高水準の賃上げ回答が相次ぎ、日銀は1カ月前倒して金融政策変更を実施

 まずは日銀の金融政策決定会合の結果から見よう。「マイナス金利解除、長短金利操作(イールド・カーブ・コントロール、YCC)の撤廃、そしてETF(上場投資信託)とREIT(不動産投資信託)の新規買い入れ終了」の3点セットである。これは先週のコラムで予想した内容と同じで、マーケット関係者の事前予想とも同じであった。年初の見通しと比較した場合とのサプライズは、この大きな政策転換は4月に行われるとの見方が支配的だったが、1カ月前倒して3月に決定されたことだ。

 最大の要因が「賃上げ春闘」の炸裂である。重厚長大企業の典型である日本製鉄が労組要求を上回る14%の賃上げを発表したことを筆頭に高水準の賃上げが相次ぎ、多くの企業で連合が掲げた賃上げ率の要求方針「5%以上」を超える回答をした。2024年春季労使交渉の第1回回答の集計での賃上げ率は平均5.28%と33年ぶりの高水準、注目の中小企業の賃上げ率も4.42%と32年ぶりの高い水準だった。賃上げは定期昇給(年齢で定期的に昇給する分)とベースアップ(新たに引き上げられる分)を合わせた数字だが、ベースアップも3.70%に達した。パートやアルバイトの時給も昨今、大幅引き上げの動きが出ている。

重要な点は「まだしばらくは緩和的金融政策を続ける」というメッセージ

 かねてより日銀は今年の春闘の賃上げ動向を重視していた。植田和男総裁は「大規模緩和策の修正を判断する上で賃金と物価の好循環を確認する必要がある」「春闘の動向が大きなポイントになる」との考えを示してきた。本来ならば、すべての結果が出揃い慎重な分析を行った上で4月の金融政策決定会合で「マイナス金利解除宣言」を行う予定だったと思われるが、出だしの想定以上の賃上げ結果を受けて、日銀が目指す「2%の物価目標」を持続的・安定的に達成できる環境は整ったと判断したことになる。

 今回の金融政策転換での重要な点は「まだしばらくは緩和的金融政策を続ける」というメッセージを日銀が明確に発したことだと思う。これによって株式市場に安心感を与え、為替市場に円安・ドル高の流れを作り出したと言える。3月22日時点でドル・円は151.50円近辺の円安となっており、日本がマイナス金利解除で政策金利を-0.1%から0%~0.1%の水準に引き上げたにも関わらず、円が売られドルが買われるという教科書通りの理屈が通用しない動きとなっている。昨年末のドル・円レートは141.25円。それが今や151.50円になっており、「今年は日米金利差縮小で130円レベルの円高になる」との思惑とは真逆の結果である。面白いものだ。

FOMC結果はサプライズなしも、FRB議長のハト派スタンスに市場は好感

 FOMCは「5会合連続で政策金利を据え置き(5.25%~5.50%)、年内の利下げ回数は3回」と発表された。特にサプライズのない内容であるが、市場関係者に「最近の雇用や物価の力強い統計数字を受けて、利下げ回数は3回から2回に減らされるかも…」との見方があったが、この結果を受けて3月20日の米国市場は主要3指数揃って過去最高値を更新し、翌日も更新する動きとなった。「利下げ&ソフトランディング期待」が投資家の楽観心理を支えている。パウエル議長の記者会見もハト派との受け止め方が強いようである。なお、併せて発表された2024年10~12月期の経済成長率(前年同期比)は1.4%から2.1%に引き上げられ、中立金利の水準も2.5%から2.6%に引き上げられた。経済成長率と政策金利水準は従来想定より高くなっている、との米連邦準備理事会(FRB)によるメッセージである。

 核心は「いつ利下げをするのか?」である。年初時点では3月のFOMCで最初の利下げをするとの見方が支配的だったが、今回は見送られた。次回の5月も同様に見送られる可能性が極めて高い。その次の6月のFOMCでの利下げ確率は75%と現在のフェッドウオッチ(マーケット参加者による予想)では示されているが、あくまで「そうなればいいな」的な要素が強いと思われる。早くて次の7月、下手をすれば9月にずれ込むと私は見ている。

円安継続や物価上昇の懸念から、日銀は年内に追加利上げを行う可能性も

 要するに、今回のコラムのタイトル『日本の早まる利上げ vs 米国の遅れる利下げ』という構図になっているのだ。これが教科書通りにはいかない投資判断を迫られる要因になっていると私は考えている。

 ところで、日銀は「まだしばらくは緩和的金融政策を続ける」という態度だが、年内に大きく変わる可能性がある。なぜならば円安基調の継続による物価上昇懸念が高まっているからだ。マーケットでは7月や10月の金融政策決定会合で利上げがあるのではないか、と囁かれている。植田総裁は追加利上げの可能性そのものを否定していない。記者会見ではインフレ対応を理由とした利上げに含みを持たせており「経済・物価見通しに大きな影響を及ぼすとなれば当然、金融政策としての対応を考える」と語っている。金利引き上げとなれば、通常は0.25%刻みでの利上げがなされる。実際、日銀は2006年3月に量的緩和を解除した4カ月後の7月に政策金利を0.25%に引き上げている。すでにこうした点も視野に入れつつ投資戦略を立てていくことが大事だと思う。

4月3日のセミナーテーマは「マイナス金利解除、本格的株高時代到来へ」

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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。

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