金融引き締めの思惑浮上も、日銀の金融政策決定会合の結果は現状維持
ドル円はついに156円を突破!―。先週金曜日に公表された4月の日銀の金融政策決定会合。その公表文(『当面の金融政策運営について』)は至ってシンプルなものだった。
「日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりすることを決定した(全員一致)。無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す。なお、長期国債およびCP等・社債等の買い入れについては、2024年3月の金融政策決定会合において決定された方針に沿って実施する」
わずかこれだけの文章だ。要するに政策金利は3月に決定したマイナス金利解除後の0~0.1%で据え置き、国債などの買い入れについては今まで通り継続との方針が示された。実は、この決定の前日に一部のメディアで「国債購入の縮小を検討」と報じられていたため、日銀は金融引き締めに動くのでは、との思惑が働いていたが、その梯子を外されたことになる。従来通りの金融緩和維持が示されたという解釈により、円が売られ、ドルが買われて1990年5月以来の34年ぶりの水準となる156.80円台まで為替が動いた。
コストプッシュ型インフレに苦しむ中、口先介入を繰り返すだけの政府
公表文はあくまで決定されたことのみ記すものだ。したがって「国債購入の縮小を検討」していたとしても決定事項でなければ、公表文には記載されない。なので詳細については、15時半から開かれる植田和男総裁の記者会見を待つ他はない。ポイントは「国債購入の縮小について議論がなされたのかどうか。そして近い将来の減額の可能性があるのかどうか」である。そして、もうひとつのポイントが「円安に対する牽制があるのかどうか」だ。
皆さんも最近の物価高については、日々、生活者の視点でその実感を持たれていると思うが、今の日本においては円安による輸入コストの増大がもたらす「コストプッシュ型インフレ」が起こっている。「152円を超える円安になると、政府・日銀による為替介入ライン」というのが少し前までのマーケットコンセンサスだったが、今や156円台。前提の為替レートに比べるとかなり円安が進んでおり「政府・日銀は何もせず、このまま放置するのか?」との疑問がますます募る。「今の為替相場には緊張をもって注視している」「断固たる措置」などと言われても何のメッセージにもならないからだ。
植田総裁の記者会見でも円安をあっさり容認し、為替市場では円安が加速
そして15時半の記者会見。私は驚いた。皆も驚いた。
記者会見の席で植田総裁は「現状の円安なら物価への影響は無視できるのか?」と問われて即、「はい」と返事をしたことから円安容認の姿勢が鮮明に示された。そもそも前日の時点でドル円は155円台半ばまで円安が進んでおり、国債買い入れ減額などの対応があると思われていたが議論はほとんどなし。おまけにまさかの円安容認発言だった。これで日銀が円安に歯止めをかけるシナリオは遠のき、今後は政府による為替介入の有無があるかどうか、そして米国の景気・インフレの動向が当面の為替動向を占うポイントになる。為替介入については、ブラックボックスの状態で予想しがたいため米国の動向を見てみよう。
米国では「強い経済&インフレ加速」に対する警戒感が高まっており、米連邦準備理事会(FRB)による利下げがますます遠のいている状況だ。
4月25日に発表された2024年1~3月のGDP(国内総生産)は年率+1.6%となり、2023年10~12月の+3.4%から減速して予想の+2.4%も下回った。「おっ、これは景気過熱感が後退して、利下げがしやすくなったな」と教科書通りに受け止められたのも束の間、NYダウは前日比で一時700ドルを超える下げとなり、米長期金利は前日より0.09%ポイント上昇の4.73%と昨年11月以来の高水準となった。
米国は輸入増と個人消費支出の上昇で「強い経済&インフレ加速」の様相
どうしてこうなったのか? 答えは純輸出の動向だ。輸出から輸入を差し引いた純輸出がプラスになれば成長率を押し上げる要因となるが、1〜3月期は輸入増でGDPの伸びを1%近くも押し下げたのだ。要するに内需旺盛&好景気で輸入増になったとの解釈である。GDPとあわせて公表された1〜3月の米個人消費支出(PCE)物価指数では、食品とエネルギーを除くコア指数が前期比年率3.7%上昇し、23年10〜12月期(2.0%上昇)から伸びが加速した。米国はまさに「強い経済&インフレ加速」の構図となっている。
マーケット参加者の政策金利予想を反映する「フェドウオッチ」によると、FRBが6月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を維持する確率は9割に達している。7月も据え置き予想が大半で、9月にようやく利下げ確率が4割程度に高まる。利下げタイミングがますます遠のいている。これは今の円安を助長する形に作用する。
「円安になれば株価が上昇し、輸出企業には追い風」は昔語りの感がある
「円安になれば株式市場が上昇し、輸出企業にとっては追い風」というのはもはや昔語りの感がある。4月25日の東京市場では円安が155円台後半まで進んだが日経平均は831円の大幅安、トヨタをはじめ輸出関連銘柄も大きく売られた。もはや為替の影響を受ける体質から脱却しているが故の動きだ。逆に言えば、円高が進んでも「株式市場は下落、輸出企業に逆風」という単純な動きにはならないということだ。
為替は当面160円に向かって動くのだろうか? だが、いずれFRBは利下げへ舵を切り、日銀も利上げへ舵を切る。日米金利差が縮小することで円が買われ、ドルが売られるという局面が必ず出てくる。為替レートを予想するのではなく、いざ逆回転が起こった時に、正しい行動が取れるかどうかが問われていると思う。
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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
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