中小企業では総務がIT担当を兼ねるケースが多いが、そのほとんどが「ベンダー丸投げ」ではないだろうか。実は会社のことを知りつくした総務だからこそ、IT活用をリードできる立場にあり、それによって会社が大きく変わる可能性を秘めている。そうしたテーマの下で、第1部では『月刊総務』編集長の豊田健一氏とITコーディネータの阿部満氏が、これからの総務とIT活用について対談。それを受けて第2部では、「攻めの総務」に必要な三つのポイントと、スマホを活用したコミュニケーション改革の手法を紹介する。

中小企業にとっての
追い風を生かすために

 第1部ではまず、経営に必要なヒト、モノ、カネ、情報のいずれにも制約があるという、中小企業にとっての永遠の課題が指摘された。中でも特に「情報」という観点からすると、「ITツールの導入は進んでいるものの、経営や業務で十分に活用しきれていない」と語るのは、ITコーディネータの資格を持ち、多くの中小企業のIT活用を支援してきた阿部満氏。

ウィズワークス 取締役
『月刊総務』編集長
豊田健一氏

早稲田大学政治経済学部卒業。リクルート、魚力で総務課長などを経験後、ウィズワークス入社。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』の編集長を務めると同時に、一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの理事や、総務育成大学校の主席講師も務める。著書に『マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター、2016年)。

 そういった実態の元凶とも言えるのが、ITベンダーへの丸投げ。IT担当を兼ねる総務は「トラブルが起きないよう『祈る』ばかりで、考えが活用にまで至っていません」と、『月刊総務』編集長の豊田健一氏も指摘する。

 よくあるのが、「他社も導入しているから」「ベンダーに勧められたから」といった理由で安易にITツールを導入するパターン。導入によって何を実現したいのかが曖昧で、結局は使われずにコストだけがかさむことになる。「その先に何があるのか、明確な“あるべき姿”がなければ現場は使いません」と豊田氏は語る。

 ハードウエアの低廉化やクラウドサービスの普及など、ITの流れは中小企業にとって追い風になっているはずなのに、なぜそれが生かせないのか。中小企業が変わるために、総務に何ができ、また何をするべきなのか。

 実は豊田氏は、「総務はサービス部門ではなく戦略部門」という考えの下、日頃から戦略総務への変革を説いている。「戦略総務になるために、これからの総務に必要な10か条」を掲げており、その一つの「コミュニケーションのハブ機能」を例に次のように語る。

ブリッジソリューションズ
代表取締役CEO
ITコーディネータ
阿部 満氏

富士ゼロックスのIT関連企業でマーケティング関連事業に従事した後、京セラのIT関連企業で事業開発部長、経営企画部長、コンサルティング部長を歴任。ITコーディネータ協会職員を経て、ITコンサルティング業務などを行うブリッジソリューションズを創設。中堅中小企業へのIT導入支援100社、アドバイスはトータル1000社以上という豊富な実績を持つ。

「総務には社内、社外のさまざまな情報が集ってきます。経営が何を考えているのか、現場目線に落として現場に伝える。あるいは社外の動きを自社に置き換えて経営や現場に合った形で伝えていく。そういう意味で総務にはハブ機能が求められるのです」

 豊田氏の主張を踏まえて、阿部氏は実際に総務が中心になってITによる変革を成し遂げた事例を紹介する。「ある企業で、営業担当者が外出先でも仕事ができるよう、モバイル端末を導入することになりました。こうした改革は営業現場から異論が噴出し、総務が矢面に立つことになります」。そんな中で、第三者である阿部氏が総務と連携することで問題を解決。その企業では、営業担当者が外出先で商談時間が長く取れるようになるなど、攻めの経営を実現することに成功したという。

 しかし一方で、総務担当者にとって、ITは苦手分野であることが多い。その苦手意識がベンダー丸投げから脱却できない大きな原因でもある。「ITは日々進歩しています。『分からないから立ち入りたくない』ではなく、技術を含め、社会の動向に敏感になる。営業に来るITベンダーにこまめに会って、最新情報を入手して業務改革に生かすといった姿勢も、戦略総務に必要でしょう」と豊田氏はアドバイスを送る。

 最近話題のワークスタイル変革のような大きなテーマから、固定電話とスマホの統合、さらには社員の私用スマホの電話料金の処理といった細かな事案まで、実は総務がITをうまく活用することで、業務がスムーズになり、会社自体が大きく変革できるケースは多いのだ。第2部では、そうした課題解決の手段としての「スマホの内線化」についても紹介する。

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