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空前の医学部ブームだという。数年後には全国の私立大学の約半分が定員割れを起こすといわれる中で、医学部は人気が上昇、偏差値も右肩上がりだ。少子高齢化、グローバル化、多様化が進展する日本で、これからの医療や医者はどうあるべきか?識者に聞いた。

日本医療政策機構
宮田俊男理事
(「みいクリニック代々木」院長)

みやた・としお 東京都出身、早稲田大学理工学部卒、大阪大学医学部卒(3年次編入)。外科専門医、産業医、元厚生労働省。大阪大学医学部招聘教授。三井記念病院などで、がんや緩和医療、小児外科を幅広く経験。大阪大学医学部附属病院等で心臓血管外科医として勤務。国や自治体のアドバイザーも務め、未承認薬の使用、患者申出療養制度にも詳しい。企業の健康経営やがん検診率の向上、がん治療と仕事、育児、介護の両立、生活習慣病の重症化予防、在宅医療の推進、日本のものづくり力を生かした医療機器開発にも取り組んでいる。


テクノロジーの進化が
医者の働き方を変えてゆく

 「これからは3タイプの医者しか生き残れないだろうと思っています」

 そう語るのは、元厚生労働省の医系技官で、現在は日本医療政策機構の理事、東京都渋谷区で地域密着医療の「みいクリニック」を開業する宮田俊男院長だ。

 遠くない未来、ビッグデータや人工知能(AI)の進化で、人間が携わる仕事の内容は大きく変わるだろうと予測されている。テクノロジーに任せられる領域が多くなり、人間でしかできない作業だけが、人間のために残される。医療の現場も例外ではない。

 「例えば、医療の世界では今後、診療の履歴や疾患のかかりやすさ、遺伝子情報などがビッグデータに蓄積され、究極の個別化医療へと進んでいきます。AIがさらに進化すれば、検査結果などから、コンピュータが診断を下す時代にもなります。そうなったとき、医者の果たす役割とは何なのか。可能性として三つの医者のタイプが考えられると思うのです」

家族や地域にコミットする「かかりつけ医」

 一つ目のタイプは、患者と密接にコミュニケーションを取りながら、家族や地域に深くコミットしてゆく医者である。いわゆる「かかりつけ医」であり、国が進めている地域包括ケアシステムの要となるポジション、英国の「家庭医」のような存在だ。

 普段から、家族の健康状態や生活環境などをよく把握していて、いざ病気になったときに的確な判断をしてゆく。そのためには、家族と医者の間の信頼関係が必要になる。テクノロジーがいかに進んでも、AIにはできない人間的な医療行為である。

 「今、グローバルな視野で医療を見ると、臨床力を鍛えることが主流になっています。日本の場合は、基礎研究を重視しており、また医学教育では“記憶力”勝負になっています。日本の医師国家試験は、基本的に知識の詰め込みを要求するもので、医学部の教授でさえ、分野が違うと正解しにくい問題も多い。現役の医者も、全ての疾患を頭に入れておくのは難しく、患者さんの方が、自らの疾患に詳しいこともある。テクノロジーに暗記の部分を肩代わりしてもらえるようになれば、日本が弱いといわれる臨床力を磨くことに時間をかけることができ、患者とのコミュニケーションももっと豊かになる可能性があります」

「匠の技」やマネジメント能力を持つ医者

 二つ目のタイプは、「匠の技」を持つ、職人的な医者である。手術にもテクノロジーの進化は導入されるが、まだ人間の持つ医療の技術には、大きな優位性がある。

 「例えば新生児の心臓の奇形など、レモンのような大きさにもかかわらず、その構造は激しく入り組んでいます。内視鏡でも心臓カテーテルでも、やはり難しい手術には“匠の技”が必要であり、なかなかロボットには置き換えられない。そうした高い技術を持つ医者の存在は、将来的にも必要なのだろうと思います」

 三つ目のタイプは医療機関をマネジメントできる医者である。

 日本の自治体病院は大部分が赤字であり、その背景には病院経営のプロがいないという要因がある。例えば、それまでに病院マネジメントの経験がなく、医学部で臨床ではなく基礎研究メインの教授の天下りでは、病院のガバナンスを適切に行うのは至難の業だ。病院には、医者の他に、看護師、薬剤師、検査技師、事務方など、いろいろな職種の人間がおり、そうした人事的なマネジメントや、医療ミスなどのトラブルに対する対処、患者や保険者、卸に対するBtoC、BtoB的な経営の側面もある。

 「むしろ普通の会社よりも経営が難しいといえるため、院長や理事長になったときに戸惑ってしまうのです。米国にはMaster of Hospital Administration(MHA)という学位があります。医者も将来、院長や理事長を目指す場合には大学院に行って病院経営を学びます。日本でも今後、経営力のある医者が必要とされる時代になると思われます」

これからの医者には
多様性が求められる

 医者の働き方は本来、時代と共に変化する。

 ヒポクラテスの時代から、医者の仕事とは、患者の症状を診て、治療法を選択して提供することだった。しかし今、新しいテクノロジーの出現によって、その枠組みが壊れ、大きなパラダイムシフトが起ころうとしている。

 これからの医者に求められる資質は、一言で言えば多様性だという。

 宮田氏自身の経歴が、それを体現している。早稲田大学理工学部で人工心臓の研究を行い、臨床試験を行うために大阪大学医学部へ3年次に編入し、心臓外科医になった。なかなか認可が下りなかったので、厚労省に入省して薬事法改正に関わり、その後、現場と環境の谷を埋めるために日本医療政策機構に参画。現在は地域包括ケアを実現するため、地域密着型の医院を開業している。時代のニーズに合わせ、自在に動いた結果である。

 日本の医療を取り巻く環境は、大きく変化しつつある。だからこそ宮田氏は「医者にとって、とてもチャレンジしがいのある時代になる」とポジティブに予測するのだ。


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