ライフサイエンス分野でのオープンイノベーションを加速させ、創薬や医療機器開発などで未来の姿を描く──。三菱UFJフィナンシャル・グループのベンチャーキャピタル、三菱UFJキャピタル(MUCAP)の活動が注目を集めている。ライフサイエンス分野に特化した専門ファンドを設立。単なる投資・回収という域を超えて科学研究成果の実用化に軸を置く投資活動は、産学連携の在り方にも変革を促している。

 

MUCAPだからこそ設立できたファンド

「MUCAPだからこそつくれたファンドだが、100億円とはMUCAPは本気だ」。ベンチャーキャピタル業界の関係者たちは驚きを隠さない。

 MUCAPは2017年2月、ライフサイエンス分野に特化した総額100億円の「三菱UFJライフサイエンス1号ファンド」を設立した。国内の民間資金による専門ファンドとしては最大規模だ。創薬や医療機器などのベンチャー企業を対象に3年間で集中投資し、設定期間は12年。MUCAPは09年にライフサイエンス室を発足させ、国内外のベンチャー企業約30件に30億円の資金を提供し、経営も支援してきた。この取り組みを経ての1号ファンドの設立だ。

 ライフサイエンス分野では現在、有効な治療法がない疾患への医療ニーズである「アンメット・メディカル・ニーズ」への対応が急務になっている。大手製薬会社も、創薬ベンチャーや大学と連係するオープンイノベーションにシフトしている。日本のライフサイエンス研究は世界でもトップレベルにあるものの、研究成果が創薬に結び付かない「死の谷」の深さも指摘されてきた。資金供給や創薬の技術ノウハウ、経営管理体制の構築などの課題があったからだ。

 MUCAPの半田宗樹社長は、「従来の投資は、ベンチャーの企業育成の側面が強かったが、1号ファンドは一歩踏み込んで医薬品創出そのものを狙いたい。当社自らリスクを取りながらライフサイエンス分野の発展や医療水準の向上に寄与したいと考えている」と語る。

 具体的な取り組みについて、増田純一・常務取締役投資第一本部長は、「トップレベルの研究成果を新薬創出につなげていく。ファンドは資金提供にとどまらず、研究開発のプロジェクトマネジメントや知的財産管理、経営管理、組織構築、人材紹介などをサポートする。国内外の製薬会社とのネットワークを生かしてライセンスの導出、資本事業提携にもつなげていく。我々がイノベーションを加速させていくのだ」と説明する。