物流センターや倉庫などの物流施設を意味する「物流不動産」。ネット通販業界の成長に伴い需要が急増しているが、さまざまな課題も見えてきた。物流不動産の現状と解決策を探る。

東京理科大学経営学部
藤川裕晃教授 博士(工学)

2008年に同大学経営学部経営学科教授に就任。研究分野はサプライチェーンマネジメントを中心としており、生産・ロジスティクス関連の研究・著作が多数ある。

 物流不動産の需要は増え続ける――そう予測する東京理科大学の藤川裕晃教授は、根拠として次の3点を挙げている。まず配送荷物の急増。スマートフォンを使って日用品から生鮮品まで通信販売で買えるようになったことから、利用者は若年層にまで広がっている。「それでも販売に占めるEC化のシェアは5%程度にすぎず、95%程度がリアル店舗で販売されています。成長の余地が十分にあり、仮にシェアが30%になると、荷物は6倍に増えることになります」。流通業のオムニチャンネル戦略に代表される実店舗と通販の融合が進めば、さらに荷物は増える。そして横浜、川越、木更津などの中核都市を結ぶ圏央道(首都圏中央連絡自動車道)が開通したことでトラック輸送のインフラが整備されたこと、J-REITの上場で潤沢な資金が物流不動産に向かっていることも追い風だ。そのため首都圏における物流不動産の新規供給量は増え続けているが、供給過剰になる恐れはないのだろうか。

 「もちろん供給過剰になれば空室率が高くなりますが、中長期的に見れば潜在需要(年間100万平方メートル)の顕在化が期待できます」

高付加価値倉庫により
物流品質を確保

 だが倉庫を造ればいいというわけではない。最近は「大型化」に加え「高付加価値化」が求められていると、藤川教授は指摘する。「倉庫は一般に汚い、ほこりっぽいというイメージがありますが、それでは従業員に敬遠されてしまいます。なぜなら販売競争が激化する中で物流品質も問われているからです。物流品質を担保するのは働く人の力。良い人材に働いてもらうためには通勤しやすい立地、きれいな室内と快適な空調、充実したアメニティ施設が不可欠です」。IoTなどを活用した効率的なオペレーションが実現できるITインフラやマルチテナントを想定した施設では、機械と人による厳重なセキュリティで荷物を守る仕組みも必須だ。

 今後、物流業界の課題となるのは「ラストワンマイル」と呼ばれる消費地に近い倉庫から家庭までの小口・多頻度配送貨物の増加だ。それを解決する一つの手段として、一人の顧客が実店舗や通販など多様なチャンネルで商品を購入したとき、輸送過程でマージ(併合)して配達する「マージ・イン・トランジット」のニーズが起き、「効率のいいマージを行うためには利用者に近い場所に拠点が必要になるため、大都市圏の廃校(例えば東京都の廃校数は389校もある)を活用した倉庫転用などが考えられます」と藤川教授は提案する。

 また将来的にはドローン、自動運転車両や配送ロボットが活躍するのだろうが、実用化にはまだ時間がかかる。当面は消費地に近い高付加価値化された物流不動産の活用が現実的な解決策となりそうだ。