今日の企業経営が取り組むべき重要なテーマの一つである「働き方改革」。その実践を支えるのに不可欠な要素が、ICTを活用した「テレワーク」の推進だ。テレワーク導入における効果や現在の国内企業における取り組み状況、さらにはそこで目指される価値について、日本テレワーク協会の富樫美加事務局長に聞いた。

 少子高齢化の進行により労働人口が減少する中、働き手となる人材をいかに確保していくかが、わが国の企業にとって重要な課題となっている。

 他方、ビジネスのグローバル化を背景に市場での競争がますます激化しており、企業は、より高度な生産性が求められてもいる。

企業の取り組みに
質的な変化が見られる

一般社団法人日本テレワーク協会
富樫 美加 事務局長

電信電話会社勤務を経て、2015年に一般社団法人日本テレワーク協会事務局長に着任。同協会や政府が実施するイベントでの講演活動などを通じてテレワークの普及に取り組む

 こうした課題の解消を目指す「働き方改革」に向けた取り組みが、近年、政府や民間企業の間で急速に進められてきていることは周知の通りだ。そして、それを支える重要な要素となるのが、ICTを活用した「テレワーク」の推進である。

「テレワークによる時間と場所を問わない柔軟な働き方の実現は、企業にとって、多様な勤務スタイルを可能にすることで人材の確保につながります。また、移動時間の削減などによる従業員の業務生産性の向上や、BCP(事業継続計画)対策やビジネスのグローバル化対応といった局面でも大きな成果をもたらします」と富樫事務局長は説明する。

 そうしたテレワークの実践に向けた取り組みについては、早くからその推進に着手してきたICT企業や外資系企業だけでなく、特にここ2年くらいの間に、製造や金融、サービス業など、業種業態に縛られないかたちで広がりをみせている。

 加えて、テレワークを推進する企業において、より広範な従業員にその適用対象が拡大されてきているという傾向もみられる。「これまでテレワークは、育児や介護など、特別な時間的制約を抱えている人たちのため、在宅勤務などの特殊な働き方を支援するという、どちらかというと福利厚生的な意味合いを持つものでした。しかし今日では、生産性向上を念頭に適用対象を全社員に広げている企業も増えており、そうした意味では施策の質も変化してきているものといえます」と富樫事務局長は語る。

中小企業こそ
メリットを享受すべき

 もっともこうした動向が顕著なのは、やはり大企業が中心であり、資金面や人材面での制約が多い中小企業においては、まだテレワークの導入が進んでいるとはいえない。これに関して富樫事務局長は「限られた人材で成果を出していかなければならない中小企業にこそ、テレワークのもたらすメリットを享受していってもらいたいです。政府においても、そうした状況を鑑み、今後、中小企業への普及に注力していく旨を表明しています」と語る。

 もちろん、テレワークはあくまでも道具にすぎない。導入が自己目的化してしまうのは本末転倒であり、生産性や業務品質の向上など、目指すべき価値を見極めたうえで、その導入や実践を進めていくことが肝要だ。「われわれ日本テレワーク協会としても、そうした本質的価値をどのように追求し、成果を上げていくべきかについての情報発信を、今後さらに強化していきたいと考えています」と富樫事務局長はいう。