最近、多くの債券市場参加者が最大のリスク要因として警戒し始めているのは、政府が日銀に国債の直接引き受けを要請することだ。

 財政再建に前向きな野田佳彦新首相が誕生し、当面はそのリスクの顕在化は後退した。とはいえ、与野党問わず、日銀国債引き受けを“財源”にすればよいと考える議員は非常に多い。

「需要不足があるときに、日銀に10兆円程度国債を引き受けさせたところで、ハイパーインフレになるはずがない」という声も聞こえる。それはそのとおりだ。しかし、一度政府がその“打ち出の小槌”を使い始めたら、節度が失われるだろう。そういった事例は古今東西、枚挙にいとまがない。

 近年でいえば、1990年の中南米(カリブ諸国を含む)の平均インフレ率は480%。また、93年に年間インフレ率が100%を超えていた国は世界で24ヵ国、そのうち1000%を超えていた国はじつに12ヵ国もあった(IMFのデータより)。それらはすべて、税収の裏づけのない歳出を政府が行い、中央銀行が紙幣を何年も刷り続けた結果である。

「いや、今の日本の政治家には高い財政規律が備わっているから心配はない」とあなたが信じるなら話は別だが、もしそうなら、政府債務はここまで巨大に積み上がっていないはずである。