ビッグデータ解析やAI(人工知能)、クラウドなど最先端のIT(情報技術)を戦略人事に活用する「HRテクノロジー」が日本でも急速に広がり始めた。人事・労務管理から採用支援、評価、タレントマネジメントまで、さまざまなアプリケーションが登場している。テクノロジーの飛躍的な進化がもたらす第4次産業革命によって人事部門の業務が大きく変わろうとしている今、HRテクノロジーにどう取り組むべきなのか。

ツールを提供する
ベンチャー企業が急増

岩本 隆
慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学部材料学科Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より現職。近著に『HRテクノロジー入門』(ProFuture)岩本 隆 慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 特任教授 東京大学工学部金属工学科卒業。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学部材料学科Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より現職。近著に『HRテクノロジー入門』(ProFuture)

 HRテクノロジーとは、テクノロジーを人事(HR)の業務に活用する手法のことをいう。先行する欧米に続き、日本では2015年ころから注目され始めた。データ解析の目覚ましい進化を背景にHRテクノロジーのツールを提供するベンチャー企業が急増する一方、政府の施策「働き方改革」も追い風となっている。膨大なデータを扱う人事部門のテクノロジー活用は生産性向上や効率化に高い効果が期待できるからだ。HRテクノロジー研究の第一人者、慶應義塾大学特任教授の岩本隆氏はその反響の大きさを次のように話す。

「グローバルで見ると、日本企業の動きは遅いのですが、ここ数年のキャッチアップのスピードには目を見張るものがあります。HRテクノロジーは、勘と経験頼りだった戦略人事を根底から変えます。今後は、HRテクノロジーを駆使して経営戦略と人材マネジメントを連動させ競争優位を目指す“戦略人事”が人事部の主要業務になります」

 さらに「以前は『経営トップの理解が足りない』という相談が多かったのですが、最近は『経営トップから導入しろと言われているが、どうしたらいいか』に変わってきました」というから、普及スピードはどんどん加速するかもしれない。

 ただ、何事もデータを基に論理的に管理する文化が浸透している欧米企業のようにスムーズにはいかないようだ。

「生産性とリンクしていない年功序列・終身雇用が残っている日本企業の場合、HRテクノロジーによる合理的な人事を一気に進めるのは難しいでしょう。経営危機に陥ったことのある企業は熱心に取り組んでいますが、そうでない企業は、採用支援や労務管理など一部の機能から始めています」

経験と勘に頼らない戦略人事が日本企業の生産性を高める

 社員が100人以上で、変化が激しい業種や成長著しい中堅・中小企業の導入も増えている。社員が100人規模にもなると、経営者や人事部が一人一人の能力やスキル、経歴などを把握しづらくなるからだ。