西新宿に実在する理容店を舞台に、経営コンサルタントと理容師が「繁盛する理容室」を作り上げるまでの実話に基づいたビジネス小説。「小さな組織に必要なのは、お金やなくて考え方なんや!」の掛け声の下、スモールビジネスを成功させ、ビジネスパーソンが逆転する「10の理論戦略」「15のサービス戦略」が動き出す。<理容室「ザンギリ」二代目のオレは、理容業界全体の斜陽化もあって閑古鳥が鳴いている店をなんとか繁盛させたいものの、どうすればいいのかわからない。そこでオレは、客として現れた元経営コンサルタントの役仁立三にアドバイスを頼んだ。ところが、立三の指示は、業界の常識を覆す非常識なものばかりで……>すでに15回にわたって連載した『小さくても勝てます』の中身を、ご好評につき、6回分を追加連載として公開します。

プロポーズの時は、
飲み過ぎてはいけない

オレは、新宿ボストンホテル25階の「マンハッタングリル」で、知見に正式にプロポーズすることにした。

以前にこっそり指輪のサイズを聞き出していて、新宿の宝石店で婚約指輪を買った。

そこの店長が「ザンギリ」の古くからの常連さんだったため、親父に紹介してもらい、随分値引きしてもらった。

給料の3ヵ月分かと思ってビビっていたけど、「あれはダイヤモンド会社の宣伝ですから」の一言に安心した。

これまで知見にはさんざん、仕事の話、理容師の家庭の話、こんなふうに人生を生きたいという話ばかりをしてきた。

同じ師匠のもとで修業した先輩と後輩の関係だし、師匠のお袋さん(オオシタのばっちゃん)やらなんやら応援団がついていたので、知見もそれなりに空気は察しているし、唐突なプロポーズではないので、失敗はないはずだけれど、それでもドキドキした。

こんなところでディナーすることは滅多にないので、予約の仕方もいまいちわからず、電話で「デートで夜景の綺麗な席をお願いします。フルコースで」とお願いした。

レストランに着くと、頭をポマードでなでつけた黒いタキシード姿のマネジャーが案内してくれた。

窓越しに新宿の高層ビル群を眺められるロマンチックな席だったが、なんとカウンターの席だった。

テーブルを挟んで向き合い、ディナーを楽しむイメージでいたオレは動揺した。

そして、その動揺のまま知見の「ロマンチックなところね」の言葉に、席を替えることもどこかに飛んでしまい、そのまま座ってしまった。

オレのプロポーズ大作戦は、しょっぱなからつまずいてしまった。

乾杯のスパークリングワインは美味しく、そこから前菜が続いた。

どうしようか……どのタイミングでどこを見てプロポーズすればいいのかな、と思案しているうちにコースはどんどん進んでいった。

が、「このワイン、美味しいね」と間をつなぎ、グラスを傾けているうちに、どんどん酔いが回ってきた。

そして、メインのステーキが運ばれ、目の前でジュージュー音を立てているのを見たとたん、クラッときた。

で、ウッときて、トイレに駆け込み、ゲーゲーと戻した。