グーグル、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回の転職を重ね、「AI以後」「人生100年時代」の働き方を先駆けて実践する尾原和啓氏。その圧倒的な経験の全てを込めた新刊、『どこでも誰とでも働ける』が発売直後から大きな話題となっています。
今回は同書より、「PDCAサイクルの否定」という衝撃的な項目を紹介します。
PDCAは、もう周回遅れ!
自分からギブすることに加えて、ぼくが12回の転職を通じて身につけたインターネット時代にふさわしい働き方とは、頭でっかちになるよりも、まず行動したほうがたいてい勝つということです。あれこれ悩んでいるヒマがあったら、とにかく動いたほうが、結果的に速く正解にたどり着く。トライ&エラーで、失敗してもすぐにやり方を見直して、再度トライすればいいわけです。
少し前までは、プラン(計画)を立ててドゥ(実行)し、結果をチェック(検証)して次のアクション(改善)に結びつける「PDCA」サイクルを何度も回せば最適な答えが見つかるといわれていました。しかし、すでにこのアプローチは周回遅れになりつつあります。プランづくりに時間がかかりすぎるという致命的な問題があるからです。
ネット時代にふさわしいのは、とにかくどんどん実行してみて、あとから軌道修正をはかるDCPAです。より正確には、DC→DC→DC→DC→……とドゥとチェックを短期間で何度も繰り返して、とにかく答えを見つけること。求められているのは、できる限り速く(あるいは限られた期間内に)結果を出すことだからです。
これだけ変化が激しい時代になると、時間をかけてあれこれ調べ、詳細な検討を加えて緻密なプランをつくっているあいだに、当初の状況が変わってしまうリスクがあります。完璧だったはずの計画は、あっというまに陳腐化して、いざ実行しようというときには時代遅れになってしまうのです。
完璧な資料に詳細な分析、緻密な計画。頭のいい人ほどこうしたことに時間をかけ、細部までつくりこもうとしますが、実は、こうしたやり方は、短期間で結果を出すことの最大の障害となっています。
その一方、実行するためのハードルはどんどん下がっています。コンピュータの処理能力が向上し、データ分析の知見も普及したおかげで、簡単にテストが実施できるようになりました。たとえば、ウェブデザインひとつとっても、20パターンくらい用意して、実際に少数のユーザに向けてテストしてみたほうが、内部で議論を重ねるよりも手っ取り早く正解に近づけます。
ネットだけでなくリアルな商品でも同じです。3Dプリンタの登場でプロトタイプをつくるコストが劇的に下がったことも、実行のハードルを下げることにひと役買っています。
この傾向は、世界のインターネット化が進むほど、より顕著になるでしょう。あらゆることでドゥ(実行)のコストが下がるので、とりあえずどんどんやってみて、その結果をチェックしながら、軌道修正をはかっていくアプローチが主流になっています。
もちろん、いきなり実行すれば、失敗はつきものです。10回実行するうちの9回は失敗かもしれません。でも、失敗したらすぐに軌道修正すればいいだけの話です。失敗してもいいという割り切りが、DCPAサイクルをうまく回すコツです。
わずか1、2回しかチャレンジできなければ、失敗できないというプレッシャーが大きすぎて、慎重にならざるを得ません。準備にも時間がかかるし、それだけ苦労して、いざ実行してもうまくいかなかったら、その影響は甚大です。一方、あれこれ悩むくらいなら、まずやってしまおうという環境なら、小さく失敗することができます。実行する回数が多ければ、失敗しても大事には至らないのです。
働き方も同じです。
昔と比べていまは取り返しのつく世の中になっています。自分の人生を会社に預けていた時代には、会社での失敗は即、仕事人生の終わりを意味しましたが、いまはいくらでも逃げ道があります。
転職も独立も起業も、昔と比べたらずっと簡単になりましたし、副業やボランティアに精を出すこともできます。ネットで探せば同じ趣味の人とつながることもできます。自分の好きなことをとことん追求して、自分の世界に浸っていると、そこに希少価値が生じて、お金をもらえるようになるかもしれません。人生を豊かに生きていくためのコストは、以前と比べて格段に安くなっているのです。
一生同じ会社に勤めるのが当たり前だった時代には、「転職するなんてろくでもない人間だ」と言う人がいました。取り返しがつかないものについては、ミスをしたくないという気持ちがどうしても強くなるので、1回の決断が重くなります。そうなると、2回、3回と決断できない。ところが、転職が当たり前になってくると、「やるだけやって失敗しても、それが信頼の蓄積につながるから、次の機会、職場にチャレンジしよう」と思えるようになって、決断のハードルが下がります。取り返しがつくから、何度でも大胆なチャレンジができるのです。
依存心をなくせば冒険ができます。その結果、いまの職場にいたままでも、新しい変化を引き起こしやすくなるのです。
もし転職が失敗に終わって誰かに迷惑をかけたとしても、大胆なチャレンジを続けて自分が成長していけば、何年後になるかもしれませんが、いつかは恩返しができるようになるはずです。
1つ言えるのは、何度もトライできる時代だからこそ、みんなと同じゲームで戦うよりも、みんなと違うゲームに行ったほうが、競争は少ないということです。
ぼくは12回転職したというだけで、こうして本を書いたり、テレビに出たりすることができますが、アメリカでは転職なんて当たり前です。でも、日本ではまだ希少価値が高い。ライバルがほとんどいないからこそ勝ちやすいのです。