日本企業が国際競争力で欧米企業に劣る要因の一つは、グローバル・タックスマネジメントの有無にある。税務はキャッシュを生み出す事業の一部である。グローバルに税務を最適化することは「税引後利益」の拡大、ひいてはROE(自己資本利益率)経営の実現にもつながることを、経営トップは認識すべきだ。

企業にとって税金は「管理すべきコスト」

KPMG税理士法人
代表 駒木根裕一
パートナー/税理士

「企業は誰のものか?」。欧米企業にとって、それは端的に株主である。経営者は株主へのリターンの最大化を使命とし、株価を高め、配当を増やすために、「税引後利益」を最大限確保することに注力している。彼らにとって税金は「管理すべきコスト」であり、税務戦略は重要な企業戦略の一部に位置付けられる。

 一方、「三方よし」を美徳とする日本企業にとって、納税は「社会貢献」の一環であり、税金は利益に応じて当然支払うものという意識が強い。加えて、経営指標についても税引前の営業利益や経常利益を重視する傾向があり、税務は利益が確定した後の「事後処理」と見なされることも多い。

「プランニングするというよりは、計算して支払うものという認識であり、その結果、企業における税務部門の位置付けも低いままです」。こう指摘するのは、KPMG税理士法人の代表を務める駒木根裕一氏である。

 グローバル展開を加速させる日本企業にとって、税務ガバナンスの強化、税務リスクの管理、グローバル・タックスマネジメントの実践は喫緊の課題だ。

「なぜ、グローバルな税務が重要なのか。例えば、会計との比較でいうと、国際財務報告基準(IFRS)の適用は任意ですが、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトが策定した国際課税のルールは罰則付きの強制適用です。待ったなしで対応しないと、余計な費用を支払うこととなり、税引後利益を減少させ、ROEが低下し、国際競争力を毀損してしまうことにもなりかねません」。KPMG税理士法人のパートナー、角田伸広氏はそう指摘する。

 欧米企業は、配当や新たなR&D投資にいかに資金を回していくのかを念頭にタックスプランニングを行う。税務はキャッシュを生み出すための事業の一部となっているのだ。

 また、ESG(環境・社会・ガバナンス)インデックスとして知られる「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス」では、税務戦略がアセスメントの際の質問項目の一つに取り上げられるなど、投資家にとっても企業価値評価の重要な要素となっている。だが、日本企業にはそうした理解が不足している。