若年人口の減少に伴って大学の競争が激化、生き残りを懸けて新たな特色を打ち出す大学が増えている。建学の理念や研究・教育姿勢の伝統を大切にしながら、時代のニーズに応えていく。そんな取り組みにまい進し、新たなブランド力を獲得している大学に注目したい。
大学の現状について「体系的な教育過程の編成や個々の授業の改善が進んできました」と分析するのは、德永保・国立教育政策研究所長だ。
德永 保(とくなが・たもつ)氏
東京大学法学部卒業後、1976年、文部省(当時)入省。筑波大学事務局長、文部科学省大臣官房審議官(高等教育局担当)、研究振興局長、高等教育局長を経て、2010年より現職。著書に『改正地教行法Q&A』、『グローバル人材育成のための大学評価指標─大学はグローバル展開企業の要請に応えられるか─』(共著)など。
さかのぼること25年前、大学審議会が設置され、教育の質などについて、いわば全大学いっせいに改善するための旗振り役を行政が担った。ところが、21世紀に入って様相が変わる。「それぞれの大学の優れた取り組みを個別に支援する政策に転換したのです」(德永所長)。
学部や学科ごとの先進的な取り組みや教育実践に対する各種の競争的補助金も、こうした流れをくむ。
行政の姿勢転換には、いくつかの理由がある。わが国には、総合大学よりも比較的小規模な大学が多いこと。また、資源、財源は限られており、すべての大学がいわばフルスペックというよりも、資源の重点配分によって機能や特色を絞り込んだほうが、大学としての役割を効率的に果たせることなどだ。
さらに行政は、大学の全国共同利用システム構築を模索している。学部や大学院を共同設置したり、地域コンソーシアムや留学生の教育拠点を共同で設けたりするなど、大学の連携が期待されるわけだ。「実質的な効果が表れるまでには時間がかかるとは思いますが、ネットワークの整備と大学の経営戦略による重点分野や機能の充実は、今後、セットで進んでいくと考えられます」と德永所長は語る。
高度専門的職業人の育成が
大学本来の役割
社会が寄せる期待もまた、大学に変化を促している。新入社員を受け入れる企業は、OJT以外の研修を充実させる余裕がないのが現状だ。グローバル化による競争はますます激しくなり、いわゆる即戦力へのニーズはこれまでになく高い。入学志願者と保護者の最大関心事も、大学を卒業して仕事に就けるのかという点に集まっている。
このため、卒業後すぐに活躍できる社会人を育成するためのプログラムを提供する大学が増えた。文部科学省も大学の就業力育成プログラムを積極的に支援する。
このような傾向には、大学が専門学校化しているといった批判的な見方もあるが、德永所長は「大学が本来の役割を取り戻したと見るべきです」と断じる。大学システムが欧州で生まれたとき、その目的は高度専門的職業人の育成に他ならなかったからだ。
「新成長戦略でも指摘されているように、生産人口の減少にあってもわが国が国際的な競争力を維持していくためには、国民一人ひとりのパフォーマンスを高める必要があります。つまり、高等教育の機会を拡大し、大学がより実践的な人材を育成することが求められるわけです」
大学選びには
教育プログラムに着目を
そこで気になるのが、高校までの知識偏重型教育と、大学の実践的キャリア形成プログラムとのギャップだ。海外に比べ、高校生、大学生の学習時間が短いことも指摘される。これに対して德永所長は、「日本の高校生のレベルが低いと悲観する必要はありません。ポテンシャルは大変大きいと思う」と語る。
例えば、現在、国際的な大学入学資格の代表とされるインターナショナルバカロレアで要求される課題設定・研究といったスキルは不足しているかもしれないが、日本の高校生の知識レベルは、国際的に見ても高いというのが、德永所長の見方だ。
「問題は、知識を実生活に結び付けるリアリティ、社会的・職業的自立を目指す意欲と目的意識を持って学ぶことができるかという点にあります」。だから、異分野の知識の統合を図るために視野を拡大する。さらに、高校までは手薄だったコミュニケーション教育にも注力する。こうしたプログラムが大学で定着し始めた意義は大きい。一定期間の留学を単位取得要件とする大学も登場しているが、「留学や留学生の受け入れなど、海外との交流による刺激は効果が大きい」と德永所長も評価する。
このように変化する大学の中から進学先を選ぶには、「教育プログラムに着目してほしい」と、德永所長はアドバイスする。今後、企業の人事・採用制度の国内外共通化が加速すると予想され、どこの大学を出たかではなく、どういう知識・技能を修得したかがより重視されると考えられるからだ。
「何を修得できるかが大学の価値を決する時代です。大学にはカリキュラムや成績認定基準などの公表が義務付けられていますから、プログラム全体を通じてどういう資質、能力を身に付けることができるのか、受験生や保護者の方にはしっかりと確認していただきたいものです」