日本のエネルギー政策が新たな一歩を踏み出す中、個人や企業の間で、太陽光発電システムへの関心が高まっている。「災害への備え、エネルギーの自給自足、エコ」といったキーワードに加え、「売電によるビジネス」という着眼点も見逃せなくなった。太陽光発電システムに関する調査、提言などを行ってきた専門家に、今後の展望と一層の普及に向けた課題を聞いた。
「住宅用の太陽光発電システムの設置件数が、2012年4月末で100万件を突破した」。太陽光発電協会(JPEA)は5月にこう発表したが、ここ数年の普及は目覚ましいものがあった。
国や自治体が導入時の補助金を充実させてきたこと、また家庭での自家消費を超える余剰分を、向こう10年間、1キロワット当たり42円(10年3月までの設置なら48円)で売電できる買い取り制度が普及の後押しをしてきた格好だ。そして今、新たに産業用(非住宅用)の分野に、大きな波が押し寄せてきている。
20年間、42円買い取りの
インパクト
1990年に富士総合研究所(現みずほ情報総研)に入社後、93年より太陽光発電分野の各種調査研究を手掛け、太陽光発電の導入ポテンシャル推定やライフサイクル評価、国内外の動向調査などの業務を担当。99年から国際エネルギー機関「太陽光発電システム研究協力実施協定」(IEA PVPS)のプロジェクトの一つ、「砂漠等未利用地における超大型太陽光発電システムの可能性研究」に参画。現在、同プロジェクトの運営責任者を務める。
いよいよ7月1日から、出力10キロワット以上の太陽光発電システムについて、全量買い取りがスタートする。6月中には最終的な価格が決定されるが、1キロワット時当たり40円(税別)が有力だ(消費税5%の場合は住宅と同じく税込み42円)。
みずほ情報総研で、太陽光発電システムの調査研究を行い、行政への提言にも携わってきた河本桂一氏は、この想定価格を評価した上で、次のように指摘する。
「金額もさることながら、買い取り期間を約束していることが大きい。新規参入予定の企業にしてみれば、投資資金回収や売電による収益について、めどを立てることができます」
河本氏によれば、震災以降、特にここ最近は全量買取を視野に入れた新規の問い合わせ、相談が急増しているという。
「メガ(1メガワット=1000キロワット。平均4キロワットの住宅用太陽光発電の250軒分)を超える規模への関心が高いのが特徴です。環境貢献の意識はもちろんありますが、売電による『経済性』『収益性』への関心が高いように感じます」
産業用のパイの
伸びしろに期待
現在、住宅用と産業用を合わせた国内の太陽光発電システムの総発電設備容量は500万キロワット弱である。
「ここ1、2年はざっと100万キロワットずつ増えてきましたが、向こう3年間は増加のカーブが急になるとみています。年間で120万~150万キロワット以上増え、14~15年ころには現在の2倍程度の水準、1000万キロワットの実現も視野に入ってくるのではないでしょうか」(河本氏)
ちなみに、数年で増加が見込まれる発電設備容量の500万キロワットという数字は、福島第1原発の1号機(定格出力46万キロワット)の約11基分に匹敵する。
ただし、太陽光発電では天候などの影響が大きく、常にフル発電できるわけではない。実際の発電電力量で比べると「5倍以上の開きが出る」(河本氏)とのことだが、それでも同1号機の2機分以上の発電量が新たに生まれる。
河本氏は、この倍々での増加を実現するためには、住宅用に比べて、より伸びしろに期待が持てる産業分野からの新規参入が欠かせないと指摘する。
「そのためには、耕作放棄地を含めた農地の使用制限などの規制緩和や、地域によって柔軟な対応を認めるといった法整備も必要になってくるでしょう」
すでに東北エリアなどでは、メガソーラーの候補地として、農地や遊休地の賃借・売買を模索する動きも始まっているという。より一層の規制緩和などが、産業用の太陽光発電システムの普及を後押しするはずだ。