団塊の世代のリタイア時期を迎えて、事業承継がうまくいかないケースがますます増えている。「日本経営品質賞」で日本初の二度受賞を果たした、中小企業のカリスマ経営者、武蔵野の小山昇社長は、独自の切り口で「事業承継セミナー」を開催し、好評を博している。小山社長が説く、成功する事業承継の秘訣とは。
武蔵野 代表取締役社長
武蔵野は、ダスキンの東京での加盟店第1号として設立。小山昇社長が就任してから急成長を遂げ、2000年と10年に「日本経営品質賞」を受賞。以後、「実践経営塾」をはじめとする、中小企業を対象とした年間240回以上のセミナーを開催するなど、コンサルティング業務にも力を入れている。
そのセミナーの講師として活躍しているのが、多数の経営書の著作を持ち、カリスマ経営者として名高い小山社長。最近は、数あるセミナーの中でも「事業承継セミナー」の需要が高まっているという。
事業承継の正解は
会社を存続すること
小山社長によれば、事業承継で失敗する原因の多くは、“清く正しい事業承継をしようと思うから”だという。例えば、後継者の候補として幹部が四人いる場合、社長はその中の一人に継がせようと考える。「それが真面目な社長ほど犯しやすい間違いです」と小山社長は言う。
四人から一人を選んだら、実力が拮抗していればいるほど、選ばれなかった幹部が不満を抱き、最悪の場合、会社は分裂してしまう。社長に子どもがいたら、たとえ娘であっても身内に継がせるべきなのだ。実力ではなく血縁によって後継ぎが決まれば、多少の失敗はあっても、不満はずっと小さい。「身内に譲るなら仕方ない」と諦めて、現場の社員は安心する。
「実力で後継者を選んだほうが公正でいいと考えがちですが、社員は誰も公正さなど期待していない。社員が望んでいるのは安定なんです」
身内が後を継げば、古参幹部も諦めがつき、社員の派閥争いも起こらない。そして何より融資している金融機関が安心する。金融機関が歓迎するのは、社長の保証が有効だからだ。代替わりした子どもが資産を持っていなくても、いずれ親の財産を相続する。一方、サラリーマン社長は金融機関が満足するほどの資産を持っていない。それでは融資もままならない。
「そもそも事業承継における正解とは、社会的に正しいとされていることと必ずしもイコールではないのです。事業承継では、会社が存続することが唯一の正解であり、社長が第一に考えるべきなのは関係者の心理。それが事業承継を成功させるための大前提です」