地震学的に非常に活動度の高い時期を迎えている日本。今後数十年内に起こると想定されている巨大地震、東海、東南海、南海、首都直下などによる地震被害は甚大で、被害額は国家予算をはるかに超える額になるという。地震の発生は阻止することができない。では、どのようにすれば被害を軽減できるのか。地震による損失の最小化を実現するため、ハードとソフトの両面から戦略研究を行っている東京大学生産技術研究所の目黒公郎教授に、地震防災対策の秘訣を聞いた。

東京大学 生産技術研究所
都市基盤安全工学
国際研究センター長
目黒公郎 教授

1962年生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。専門は都市防災マネジメント。地震をはじめとするハザードが社会に与える人的・物的被害、社会機能の低下などのさまざまな障害を最小化する戦略研究。途上国の地震防災の立ち上げ運動にも参加し、内外の30を超える災害と事故の現地調査を行っている。『間違いだらけの地震対策』(旬報社刊)など著書多数。

 兵庫県南部地震や東北地方太平洋沖地震など、大規模地震災害を経験していながら、われわれの地震防災に対する理解には、多くの誤りや誤解があると目黒公郎教授は主張する。

「兵庫県南部地震による死者の多くは、火災による犠牲者だと思っている人がいますが、それは間違いです。神戸市内の犠牲者の死亡原因を見ると、地震直後の建物の倒壊や家具の転倒による犠牲者が全体の83.3%、建物の下敷きになって逃げ出せず焼死した方を含めると95.5%にも達するのです。しかも地震直後の14分以内の死亡者が全体の91.9%です」

最大の課題は建物の倒壊

 地震後の大規模延焼火災にも建物被害が大きく影響している。公的消防力の対応力を越える同時多発の震後火災は、市民による初期消火が重要である。しかし、対応すべき市民が被災建物の下敷きになったり、その救出を優先することでの対応の遅れ、素人による被災建物下の出火対応の困難さ、倒壊建物を原因とする道路閉塞による火災現場へのアクセス困難などで、初期消火ができなくなる。つまり、建物被害が軽減できれば延焼火災は大幅に改善できるということだ。