業界を変えた格安結婚式

株式会社レック
代表取締役 KSGグループCEO
高橋 泉氏

 海・山・街が近く、美しい景観に恵まれた港町・神戸は、ショッピングやデートを楽しむスポットとしてはもちろん、「結婚式を挙げたい街」としても人気だ。中でもレトロな異人館が点在する北野かいわいには多くのウエディング施設が集積し、週末には街角のあちこちで幸せそうな挙式風景を見かけることが珍しくない。そんな街の一角にレックが小さなチャペルを構えたのは2000年4月のこと。今では全国に広がった「小さな結婚式」の第1号店だ。

 しかし、そのコンセプトは従来の結婚式場とは全く異なるものだった。「小さな結婚式」が扱うのは、参列者十数人の小規模な結婚式のみ。しかも衣装、着付け、ヘアメーク、記念写真などを全て含んでたったの4万8000円(現在は6万7000円)という破格の料金で提供する新しいサービスだったのだ。

「再婚するカップルや、事情があって結婚式が挙げられなかったカップルのために、安くておしゃれな結婚式ができるサービスがあればいいのに……。そんなアイデアから生まれた事業です。4万8000円という価格の根拠は、私だったら再婚の挙式に掛けるお金はせいぜい5万円ぐらいかな、と思ったから(笑)」

 当時をそう振り返るのは、同社代表取締役の高橋泉氏だ。業界の常識を打ち破るサービスと、消費者目線の価格は「身内だけでささやかに結婚を祝いたい」「結婚式にお金は掛けたくないけど、ウエディングドレスだけは着たい」といったニーズを捉え、たちまち式場は予約で埋まった。

市場は縮小していない

「いざ始めてみると初婚カップルの需要が多いことに驚きました。ただ、薄利多売なので、事業として安定するまで時間はかかりましたね」

 高橋氏はそう話すが、神戸を皮切りに、青山、横浜、仙台……と順調に店舗は増え、現在は全国27拠点で年間9000組もの挙式を手掛けるまでに成長。今後は郊外への店舗拡大にも力を入れる。しかし、少子高齢化・非婚化が進む中、ブライダル市場も縮小が進む。拡大戦略に迷いはないのだろうか。

「結婚するカップルは毎年約70万組で15年前からあまり変わっていません。そのうち挙式をするのは40万組で、残りの30万組はいろんな理由があって挙式をしない。「小さな結婚式」のターゲットは、そもそも従来のブライダル市場からこぼれていた30万組の方たちです。しかも、今やバツイチはもちろん、バツ2、バツ3も当たり前。結婚は「一生に一度」のものではなくなっていますから、市場が縮小しているとは全く考えていません」

 結婚するカップルの全てを、「結婚適齢期に多くの人に祝福されて一生に一度の結婚式を挙げる」という一つのモデルに当てはめていたら見えなかった市場だ。さらに「おめでた婚」や「子連れ婚」はもちろん、家族すら招待しない「二人だけ婚」、高齢カップルの「シニア婚」……。条件さえ合えばターゲットになり得る潜在マーケットはまだまだ隠れている。

「日本中どこでも安価ですてきな結婚式を挙げられるようになるまで、拡大をやめるつもりはありません」そう高橋氏は明言する。