2016年度入社以降の採用スケジュールが変わる。単純に採用期間短縮という問題だけに目を向けるのではなく、良い人材を採るためには採用に潜む問題を解決する必要がある。

 日本経済団体連合会(経団連)は内閣が閣議決定した「日本再興戦略」に従い「採用選考に関する指針」を策定した。指針では日本国内の大学・大学院などに在籍する学生を対象として、広報活動を卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降、選考活動を卒業・修了年度の8月1日以降、正式な内定日は卒業・修了年度の10月1日以降とするよう求めている(図参照)。

「その結果、会社説明会などの広報活動が大学3年生の12月から翌年3月へ、面接などの選考開始は4年生の4月から8月に繰り下げられることになります。内定時期は4年生の10月のままなので、大企業が採用を目的として学生と接触できる期間は2015年度までの11ヵ月から7ヵ月へと短縮されることになります」と雇用契約や採用を専門とする横浜国立大学の服部泰宏准教授は説明する。

二つの曖昧さが
ミスマッチを招く

横浜国立大学大学院
国際社会科学研究院(経営学部)
服部泰宏 准教授

1980年生。神戸大学博士(経営学)。滋賀大学経済学部准教授などを経て2013年から現職。著書に『日本企業の心理的契約:組織と従業員の見えざる約束』など。
●採用学プロジェクトHP/
http://saiyougaku.org/

 しかし現在の日本企業が抱える採用の大きな問題は、実は採用活動期間の短縮ではなく、「二つの曖昧」にあると服部准教授は指摘する。

 一つ目の問題は、曖昧な「期待」要件。採用活動とは学生と企業のお互いの「期待」(求めるもの)をマッチングさせることであるのに、企業は良い情報は積極的に開示するが、悪い情報は隠そうとして給与水準、教育機会、仕事の内容、転勤の可能性などを曖昧にする。学生側も「残業はありますか」などと聞くと悪い印象を与えると考えて言い出せないまま、選考が進んでしまう。この時点で、企業と学生がお互いに求めるものの間にミスマッチが起こる。

 二つ目の問題は、曖昧な「能力」要件。多くの企業は学生に求める能力として“コミュニケーション能力”や、その意味すらはっきりしない“人間力”を挙げる。しかし本来、求める能力は企業の事情によって異なるはず。それなのにどの企業も同じような軸で評価したがるために、ブランド大学を卒業したコミュニケーション能力の高い一部の学生の奪い合いになってしまう。「これでは知名度の高い資金力のある企業は力業で採用できるけれど、多くの企業は希望の人材が採れないことになってしまいます」(服部准教授)。