マンションを“終の棲家”とする上で、節目ごとの大規模修繕工事は決して避けることのできない定期メンテナンスだ。だが、建物ごとに老朽化の箇所や進行状況は異なり、判で押したような画一的な対処では、費やした費用に見合っただけの成果が得られないこともある。

「平成25(2013)年度マンション総合調査」によれば、5年前の調査と比べて60歳代以上のマンション居住者が如実に増加しており、すでに全体の過半数を占めている。居住者の永住意識も着実に高まっていて、52.4%の区分所有者が現在住んでいるマンションを“終の棲家”と考えているという。

 マンションに長く住むことになれば、建物寿命を左右する長期修繕計画の重要性も意識され、これを作成している管理組合の割合は増加傾向にある。13年度では、全体の89%に及ぶマンションが長期修繕計画を作成しており、その計画に基づいて修繕積立金の額を設定しているところも増えてきている。

 ただ問題は、その長期修繕計画が建物の現状に見合ったものであるかどうか、である。

工事の精度を上げて
修繕周期を延ばす

 大規模修繕工事は外壁に施す塗装・防水などを基本とし、10〜12年ごとの実施が目安とされる。その他にも、給排水管やガス管、各種設備などの修繕・改修が必要で、そうした工事には相当な費用が掛かり、修繕積立金で賄われるのだが、ずさんな計画と管理で積立金が不足するトラブルが後を絶たない。

「長期修繕計画を作成している」という管理組合の中には、新築時の計画をそのまま踏襲している、または管理会社に一任して承認しただけといったケースもあるだろう。さらには、必要のない工事が計画に含まれていることもある。事前に策定されている計画が現状に見合っているかどうか、計画の内容を精査する必要がある。

 さらにその上で、建物の調査をした結果、予想以上に傷んでいたり、計画の時点より工事費用や資材費が値上がりして工事費用が高額になることもある。特にここ数年の人件費の高騰や材料の物価高騰から、これまで以上に積立金不足は、深刻な問題になってきている。

米沢賢治
一般社団法人マンション大規模修繕協議会 代表理事
1級建築士

 解決策として、一時金の追加徴収や積立金の値上げなどさまざまな方法があるが、1級建築士でもある一般社団法人マンション大規模修繕協議会の米沢賢治代表理事が提案するのは、10〜12年の大規模修繕工事周期を15年周期に延ばすことだ。

「最近の建物は、100年持たせることができます。そのためには的確な長期修繕計画と適正な修繕工事が不可欠です。そもそも老朽化や劣化は、新築時の施工技術・仕様とともに、立地環境にも左右されます。海沿いや川沿い、さらに線路沿いの物件はどうしても傷みやすい。個別に調査しなければ、その建物にとってのベストな選択はできません。詳細な建物検査診断、綿密な修繕計画、適切な仕様、高い技術レベルの施工、その後の定期点検、メンテナンスが全てセットになってこそ、大規模修繕周期が延ばせるのです。そうした技術的裏付けがなければ、将来深刻なトラブルに見舞われる可能性もあります」

 修繕積立金を無駄にせず、効果的に使うためには、専門家の的確な判断と対処が不可欠ということだ。うかつな素人判断では、単なる問題の先送りで、むしろ将来の工事費負担が膨大になりかねない。

「老朽化した上下水管の交換にしても、大規模修繕工事で手掛けるのは共用部分を通っている箇所のみ。その一方で、個別のリフォーム工事で専有部分を業者が交換していたりしますが、共用部と専有部のジョイント部分が手付かずのまま放置されるケースもあります」

 大規模修繕時には、このような盲点に関しても明らかになり、対応が迫られることもある。信頼できる専門家に早い段階から関わってもらい、一緒に進めていくことが肝心である。

居住者と一丸となって
建物を守る専門家

「大規模修繕の実施に当たっては、単なる修繕ではなく、マンションを守る(資産価値の維持に努める)という発想で臨むことが大前提。そして、今後も安全・安心に暮らせる場とすることが大切です。施工会社や設計事務所にも、『居住者と一丸となって自分たちがそのマンションを守っていく』という使命感が求められます」

 とはいえ、信頼できる専門家を見つけ出すのは容易ではない。

「半年程度付き合ってみてから、正式に契約を結ぶかどうかを決めるという手も一考。また、理事会は、結果だけでなく、自分たちが少しずつ一歩ずつ学んだり考えてきた道筋を組合員一人一人にもっと懇切丁寧に情報発信をするべきです。居住者共通の財産を守り抜くには一致団結が何より大切です」